アヴァ・マーチ 『貴族の恋は禁断の香り』
翻訳:美島幸
- 作者: アヴァ・マーチ,寿たらこ,三島幸
- 出版社/メーカー: オークラ出版
- 発売日: 2011/05/23
- メディア: 文庫
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1822年4月、イングランド、ロンドン。オリヴァー・マースデンとヴィンセント・プレスコットはともに侯爵家の次男で同じ寄宿学校に通ったこともある親友同士。オリヴァーはヴィンセントへの恋を押し殺してきましたが、ヘテロだと思っていたヴィンセントが密かに男娼を買っていることを知り、一晩だけ男娼に成り代わってヴィンセントに抱かれようとします。そこで初めてヴィンセントのSM嗜好を知り……、というお話でした。
主人公のオリヴァーは昔から劣等生で実家も借金まみれ、なのに特に仕事もしておらず(必要な時は賭博でお金を用立てる)、社交家でもなく貴族らしい華やかさもなくて、一見ひたすら地味で受動的な性格のキャラのように思えます。ところが、何気に凄い行動力の持ち主でした。
娼館の女主人に直談判の上男娼として店に潜り込むって、なかなか出ない発想ですよね!ヴィンセントにも自ら一夜を共にした男娼が自分だったと明かしますがその時も声真似して演出交じりの劇的なバラし方をしているし、同性愛に対して煮え切らない態度を示しているヴィンセントを批難して尻を叩いているし、二人の仲を進展させるきっかけを作るのはたいていオリヴァーの方からでしたので、この人結構思い切りの良いタイプだと思います。そういう意外なところは良かったです。
あと、最後の方にあったリバ。まさかこんな展開があるとは。欧米のスラッシュやM/Mロマンス小説ではリバが普通にあると聞きましたが、本当だったんだなーと何やら読んでいて感慨深くなりました。
実はこのリバ、本書で一番萌えた展開でした。中でも特にオリヴァーがヴィンセントの服を脱がせているシーンが可愛くて良かったです。
そのまま指先をヴィンセントの脇腹へと動かしていく。
ヴィンセントの体がぴくぴくと動いた。
笑いをこらえているのだろうか?
ヴィンセントがくすぐったがりだとは思ってもみなかった。
(略)
「くすぐったがりなんだ」オリヴァーはその小さな事実を大切な宝物と思って心にしまいこんだ。愛する男性のこんな親密な部分を知る。なんて素敵なことだろう。
オリヴァー、嬉しそうですね。「宝物」だなんて可愛いです。
ちなみに難点を言うなら、いくら部屋が暗くて相手が髭面だろうと長年の旧友なら気付くのでは?とか、オリヴァーが男娼の正体は自分であるとバラすつもりになったきっかけがいまいちよくわからないとか、キスという行為にあまりにも重要な意味付けをしているのがピンとこないとか、ちょっと腑に落ちない部分はありました。
また、翻訳はそこまで違和感は感じませんでしたが、邦題は陳腐かなぁと思いますね。あと、SMシーンの会話文の文体にはちょっと翻訳っぽさが強く出ていた気がします。「お願いです」という言葉を受けがたくさん発していて、これはたぶん原文では「Please」なのではと思いますが、日本語としてちょっと不自然な感じがしました。日本の作家さんが書くのであれば哀願の言葉はもっと多彩だったんだろうなと思います。まぁ、この辺りは翻訳小説の難しいところですよね。
この作品は原文では3部作で、今回の翻訳本にはそのうち2部までが収録されています。3作目も読んでみたいです。果たしてオリヴァーがヴィンセントを抱く日は来るのか気になります。