sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説、ミステリ小説等のジャンルごった煮読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。ネタバレ多数、ご注意ください。コメント大歓迎です。2018年は月一更新を目指し、毎月15日0時更新予定。

よしながふみ 『ジェラールとジャック』

ジェラールとジャック (白泉社文庫)


ジェラールとジャック』はリブレ出版からも全二巻の形式で単行本が出ていますが、私は白泉社の一冊にまとめた文庫版を10年以上前に買いました。以来、何度も何度も読み返しています。

とっても面白いんですよー!よしながふみさんのBL作品の中では一番好きです。

フランス革命のパリ――。親の借金のかたに男娼専門の売春宿へと売られた、貴族の少年・ジャック。彼はそこで「始めての客」としてであった、銀髪で顔半分に大きな傷を持つ男・ジェラールの屋敷で偶然働くことに。時が経つにつれ、次第に強く美しい青年へと成長していくジャック。そして彼を見守るジェラールの心の中には、閉ざされたある悲しい出来事があった・・・。革命の嵐の中、歴史の波に翻弄される2人の運命は・・・!?

  • 受け:ジャック・フィリップ・ド・サンジャック(16、17~25)
  • 攻め:ジェラール・アングラード

時の流れと充実した読後感

本作は一冊読み終わった後の満足感が本当に凄くて、私は読み返すたびに「は~!いいもの読んだ~!」としみじみ読後感に浸ってしまいます。これ、たぶんストーリー展開の面白さそのもの以外にも、一冊分のボリュームがある程度充実していること、そしてメインキャラクターの人生に長期間焦点を当てて描いていること、この2点のおかげも大きいのではと思います。なので、本書については単行本2巻分の分量がある文庫版で一気に読めことをお勧めします。

第一話では、10代半ばの子供だったジャック。彼が、心身ともに立派な好青年になった姿を見て、おぉ~よく育ったなぁ~となんだか思わず親戚のおばさんになった気分を味わいました(笑)。特に、410ページの1コマ目のジャックは、ジェラールへの信頼と自信に満ちた成年男性としての姿がとても凛々しくて、ぐっときました。


重層的な関係性と絶妙な捻り

ジャックとジェラールの関係性も、長い時間の中で変化し、どんどん重層的になっていきます。

第一話の初対面の二人は、男娼とそのお客にすぎません。お金持ちの攻めが男娼の受けを大金で買いあげるという筋立てなのですが、これだけ聞くと、ロマンス小説やらポルノ映画やらBL漫画やら古今東西の創作物で繰り返されてきた王道展開をなぞるだけで、つまらなそうに聞こえてしまうでしょう? ところが、違うんですよ! 

この作品の第一話の着地は、ラストを少し捻ったオチにしているので楽しめます。おー、こう来るか!こういう関係性に落ち着くのか!と、読んだ方は意外な展開に驚かされるはず(あらすじで盛大にネタバレされていますが)。

男娼と客として出会った二人の関係は、次に主従関係であり、師弟関係であり、同時に家族であるような密接な関係へと変化していきます。さらに物語の舞台も、第一話の娼館から、第二話以降は主な舞台をジェラールの居館に移ります。

ところで、この作家さんは『執事の分際』というBL漫画も描いているのですがそちらも革命期のフランスを舞台にしているんですよね。本書と一緒です。しかし、『執事の分際』が従(執事)×主(貴族)のストレートな下克上モノであるのに対して、こちらの『ジェラールとジャック』は主(雇い主)×従(使用人)のお話なのが対照的です。

攻めのジェラールはジャックよりも大分年上で、雇い主で、大学出のインテリで、裕福です。明らかに二人の力関係のバランスにおいては全般的に優位に立っています。彼は年若いジャックに知識を与えたり剣術を教えたりと導く役割を積極的に果たし、庇護者として振舞います。病床の少女への対応やジャックへの台詞を見るに、たぶん元々父性愛が強めの人なのでしょうね。ジェラールのジャックへの愛情は恋愛感情だけではなく親子愛的な感情も多分に含まれているように見受けられました。

そういう非常に「優位」なジェラールですが、身分制度という点で言えばジャックよりも「劣位」に置かれているのが本作の面白いところです。攻めのジェエラールは平民、受けのジャックは伯爵で、いわゆる「下剋上」なカップルでもあるのです。

ジャックの場合は革命以前からジェラールの下で働き始めているとはいえ、貴族を召使として屋敷で使う平民の成金、というのはいかにも革命期を象徴する図ですし、2人の力関係のバランスが偏りすぎないよう巧妙に設定されているなぁと思いました。


ジェラールの書いたレズビアンポルノ小説

さて、ジェラールは小説家なのですが、男色家のジェラールがレズビアンモノのハードポルノ小説を書いてベストセラーになった、というのも面白いですよね。もちろん、男色家といっても若い頃のジェラールは妻に熱烈な恋をしていたのでゲイというよりはバイセクシュアルなのでしょうが。

実際のところゲイがレズビアン同士の恋愛をメインに据えた作品のプロの作家になったりすることはどれだけあるんだろうか、とつい考えてしまいました。レズビアンやおい好きという女性はたまにいるそうですが、その逆もまたありなんでしょうか。さすがに商業作品まで出版するようになるのは稀なのでは、と思いますが……。

ジェラールがポルノ小説家だと知った時のジャックの反応は、残念ながら作中には描かれていません。見てみたかったな……! なにしろ奥手ですから、さぞ吃驚仰天したのではないかと。そしてジェラールは初心なジャックをからかい倒して愉快なシーンだったんじゃなかろうかと思います。想像するとほのぼのするなぁ。

このジェラールの書いたポルノ小説は、本作の中盤から終盤にかけて重要な役割を担うアイテムとなります。単なるギャグ的演出に留め置かず、ちゃんと物語に活きる要素となっていることに最初読んだときは驚きました。こういう伏線の使い方上手いですよね、よしながさんは。

ジェラールが自作を「三文小説」と自嘲する場面もありますが、実際には彼自身の思想も反映された力作なのでしょう。女性が賢さを身につけていく様が作中で描かれているために言論の自由を象徴する著作物として政府に目をつけられて弾圧されてしまいます。多くの読者に愛され、そしてそのことが政治的に迫害されたジェラールとジャックの逃避行を救うオチになる展開は意外性があって面白いものでしたし、何より泣かせるんですよ。本作は、卑近に言えばまぎれもなくBLですし濡れ場もしっかり描かれたラブストーリーですが、一方で物語の着地にヒューマニズムを匂わせており、読後感が爽快でした。


その他

  • ちなみに、ジェラールは聖人君子ではなく、下衆な面も持っています。児童買春の上に、売春宿で買った男娼をレイプしておいてその男娼に説教するって、1話のジェラールは結構クズなことをやらかしてますからね。
  • 本作で“悪役”のキャラクターと言えるのは、ラウル・ド・アマルリックでしょう。案外好きなキャラでして、死んだとわかった時は残念に思いました。厚顔な輩ですしジャンヌには酷いこともしていますが、「今度は売れるよ。賭けてもいい」とジェラールに言うシーンなどを見てると愛嬌があるんですよね。

まとめ

フランス、貴族、下剋上、作家、といったキーワードに萌える方はもちろんのこと、それ以外の方にも、自信をもってお勧めできるBLです!



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