sorachinoのブログ

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えすとえむ 『やがて、藍になる』

やがて、藍になる (マーブルコミックス)

やがて、藍になる (マーブルコミックス)

藍染職人同士という珍しいお話でした。よくこんな渋い題材に目をつけたなと思ったら、後書きによれば作者の母親が染色家で幼少時より染めることは身近だったそうな。藍染工房へ取材にも行ってこの作品を描いたそうです。

じいちゃんの手は、しわというしわに深く藍が刺さり、まっ青だった

この辺りの描写は取材の賜物でしょうか。

表紙イラストも深い藍色基調で、背表紙には藍染の反物が描かれており、装丁も伝統工芸を扱った作品に見合った落ち着いたものでした。帯には紺地に白い麻の葉図案が施されています。この本を読んでいると、小学生の頃に藍染工房に社会化見学に行ったことや、中学生の頃に家庭科の授業で藍染布に麻の葉の刺し子をしたことを思い出します。懐かしい。

この作品は、職人ものであると同時に義兄弟ものでもあります。小学生の頃両親を亡くした攻めは、藍染職人だった父親の勤め先の工房の主人夫婦に引き取られます。工房の主人には既に同い年で誕生日が数ヶ月先の実子がいるため‘弟’になったのでした。
弟は、作中で何度も生前の実父から

一ミリだってズレちゃいけない
少しでもズレたら先には大きなズレになるからね

と教えられたことを思い出します。それは藍染めの作業工程における指導だったのですが、弟は兄とのことを思い浮かべ「兄弟であることから一ミリだってズレてはならない」という規範を捨てられないのです。実際には兄とは思っていなかったくせに。このエピソードはうまく藍染め職人であることと兄弟として育てられたことと絡めていて上手いなぁと思いました。

兄の弟への想いは言動から理解しやすいんだけれど、弟の態度が煮えきらず、結局最後まで恋愛面でのはっきりとした決着はついていません。余韻を残すラストって嫌いじゃありませんが、この作品の場合は弟の胸中がどうもよく掴み切れないまま終わってしまった……。『やがて、藍になる』という意味深なタイトルに着目し藍は愛に読み替えることもできると考えれば、二人は強い絆で結ばれ、そこに愛はあるけれどそれは恋愛という形に着地するとは限らない、その愛に名前をつけられ分類されることを拒む、という感じなのかな。

表題作の『やがて、藍になる』よりも、同時収録されていた短編『泳ぐ、溺れる、泳ぐ、』の方が短いながら印象が鮮烈でした。これも恋愛というよりも心の触れ合いを描いた作品なのですが、お話も秀逸で絵も美しいです。



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