sorachinoのブログ

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木下けい子『由利先生は今日も上機嫌』『由利先生と愛しき日々』

由利先生は今日も上機嫌 (ミリオンコミックス 84 Hertz Series 39)
由利先生と愛しき日々 (ミリオンコミックス  Hertz Series 67)

大洋図書ミリオンコミックス

  • 受け:六車
  • 攻め:由利京一郎


由利先生シリーズの第1巻『由利先生は今日も上機嫌』が、私にとって木下けい子さん初読みの作品になりました。有名な漫画家さんなのでもちろん以前から名前は知っていましたし、読んでみたいなと思っていたところ、ちょうど本屋で和装の男性が可愛い青年に膝枕をされているキュートな表紙を見かけて購入しました。

終戦後の昭和を舞台に、ちょっと意地悪なミステリ作家×おっとりした担当編集の日常が描かれます。『由利先生と愛しき日々』は続編です。


【ほのぼのとした雰囲気】

ふんわり、ゆったり、まったり、のんびり、そんな雰囲気が全体的に漂っていて、木下けい子さんの柔らかいタッチの絵に合ったお話だったと思います。

それがよく表れているのが『由利先生は今日も上機嫌』の表紙と裏表紙。どちらも水彩絵の具で着彩されたかのような綺麗な庭といい陽射しの降る縁側といい膝枕をしている受けと攻めといい、猫といい、実にほのぼのとしていて良かったな。金色の文字のデザインなど装丁も好みでした。この表紙に惹かれてこの本を手に取ったようなものです。

復興もそれなりに進んだ戦後の昭和20年代あたりという少しノスタルジックな舞台設定も、それに見合ったサスペンダーや帽子とスーツの組み合わせ、菓子折りなどレトロな服装や小道具も、いい具合にファンタジックで心地よいです。攻めは従軍経験ありのようですが、戦中の悲惨さや戦後の混乱などは匂わされるぐらいでほとんど描かれていないので、ふわふわとした御伽噺のような、のどかで平和な癒し系BLでした。

【目を閉じた顔】

木下けい子さんが描く受けが両目を瞑ったカットを時折目にするたびに好きだなぁと思いながら読み進んでいたところ、

「目を瞑られるとついキスしてしまうじゃないか」

「そら…またそうやって目を閉じて私を誘うだろう」

という攻めの台詞が出てきてちょっとニヤニヤしてしまいましたw おぉ〜攻めも同じように魅力を感じていたのか!と。

いや、作家さんがそれだけ受けの両目を閉じた絵を意識的に魅力的に描いていたのでしょうね。ちなみに受けが両目を瞑ったカットは『由利先生は今日も上機嫌』の56ページの2コマ目や115ページの1コマ目、135ページの1コマ目、137ページの3コマ目などいくつかありますが、私は56ページの2コマ目と137ページの3コマ目の表情が特に好き。

【犬の仔】

そういえば、攻めが受けを見て「犬の仔のようだ…」「犬の仔か」と度々内心突っ込みを入れているんだけど、この“犬の仔”という言葉は萌えると思いました。“仔犬”とはまた違う素敵なニュアンスがあるよなぁ“犬の仔”って。

【告白シーンが可愛すぎる】

鈍い受けに意地悪したり我侭を言ってみたりからかってみたりする攻め。彼は自分からいろいろちょっかいをかけて、しまいには手を出すくせに、なかなか自分の受けへの想いを言葉にせず相手から告白させようとするという捻くれたところがあります。

そんな攻めと、頬を押さえられていて口を動かしにくい受けとの会話で、

「君は私を好きだろう どうだ 観念したまえ」
「しゅ…しゅきりゃないれすぅ」
「なんだとう!?」

というのが、攻めが本気で怒ってるっぽいのが可笑しくてつい笑ってしまいました。余裕&自信たっぷり男が慌てている姿はいいですね。

続編の『由利先生と愛しき日々』でもお互いの気持ちを伝え合って確認するシーンがありましたが、こちらも攻めが可愛かったです。

「先生は僕をどうお思いになってらっしゃるんですか」
「……それはその…アレだ まあそういうことだよ君」

照れてる攻めが可愛い。

 

≪その他≫

  • 『由利先生は今日も上機嫌』は特に大きな事件や入り組んだ人間関係が発生するわけではなく、二人の日常を描いているので、良くも悪くも緩くてぬるいと思わないでもありません。ふんわりな雰囲気は大好きだし受けの犬っぽい癒し系キャラクターも可愛かったけど、一方でもうちょっとストーリーに起伏があっても良かったかも。クライマックスをもっと事件を絡めて盛り上げてから二人の気持ちが結びつくという展開にしてほしかったなぁ。続編の『由利先生と愛しき日々』になると、由利先生の婚約者とか当て馬攻め(?)らしき男性などの新キャラクターも増えるんですが、あっさり引き下がったり、軽く2人の仲に邪魔する程度なので、やはりこちらもそんなに大事件という感じがしないんですよね。
  • 「六車」と書いて「むぐるま」と読む姓があるのを初めて知りました。情緒のあるお名前だなー。ところで六車君の下の名前って出てなかったと思うけれど、それともうっかり読み落としたのだろうか?
  • 表紙、全体的に大好きなイラストなのですが、ただ一点、攻めの口の位置に関してはちょっと気になるかも…。
  • 手書きの文字は読めない大きさでは無いけれど、もうちょっと大きい方が嬉しい。
  • 終戦後の昭和が舞台な本作では、

    「昭和生まれは軟弱でいけませんね」

    という台詞が出てくるんですが、なんか笑ってしまいました。現在は平成生まれが成人してるけれど、昭和の初めに生まれた人も「近頃の若者は〜」的な言われ方をされた時代が確かにあったんだよなぁ。そう思うと何気ない台詞なのだけれど意外で面白かった。受けや攻めは私の祖父母世代なんだなぁ。まぁ、大正生まれの人が最も戦争体験が長くて昭和生まれ程には軟弱ではいられなかったという意味も込められているのかもしれないけれど。

≪まとめ≫

可愛げのある登場人物達と、ゆったりと朗らかな春の日のような雰囲気が魅力的な作品でした。