sorachinoのブログ

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真瀬もと 『背中合わせのくちづけ』1巻

背中合わせのくちづけ (1) (ディアプラス文庫)

背中合わせのくちづけ (1) (ディアプラス文庫)


『背中合わせのくちづけ』1巻は、31歳のぬいぐるみデザイナー×20歳前後の殺し屋のお話。

舞台は禁酒法時代のアメリカ、ギャングスターの抗争が激化するシカゴとその郊外の湖岸の街エヴァンストンです。1巻冒頭の1926年の9月半ば、ミシガン湖に近いジャクスン公園で攻めのアロンは受けのショーンに出会います。

真瀬もとさんの小説を読むたびにいつも思うのですが、この作家さんは本当に魅力的な時代・場所を舞台に選んできますよね。執筆傾向から推測するに、国内外問わず19~20世紀のちょっとクラシカルな時代背景がお好きなご様子。私もそういうのは好物なので、ついこの方の本は手に取ってしまいます。

本作でも、時代背景を意識してか一九一五年式T型フォード、蓄音機の蝋管など小道具もレトロなものを登場させていました。小道具といえば、「車に盗聴器をしかける」という場面がありましたが、この時代の盗聴器ってどのくらい小型化していたんだろうか。歴史的にはこういう器具は戦時に飛躍的に性能を向上させるようですが、作中では第一次世界大戦を経た時代という設定ですから当時結構実用化されていたのかな? こういうことを色々想像しながら読むのも楽しいです。

この巻には、2人が恋人同士になるまでをアロン視点で描いた本編『背中合わせのくちづけ 1』と、その後をショーン視点で語る短編『Knock Knock』が収録されています。正直なところ本編だけではギャングの抗争状態やショーンの正体と心中、ショーンと司法省捜査官ウィリアムとの人間関係が不鮮明で、いまいち物語を掴みきれないなぁという印象でした。『Knock Knock』を読んでやっとショーンの言動が腑に落ちた感じがします。

ショーンは無垢な子供のような人ですが、かなり特殊な生い立ちをしており、そのせいで殺人行為に罪の意識を覚えません。暗殺者としては有能だけど、一般常識やモラルが欠如しています。そんな住む世界の異なる殺し屋を一般人のアロンは愛します。もちろんショーンは魅力ある人ですし、アロンと結ばれた後はもう人は殺さないと誓いますが、それにしたってアロンの懐の深さはハンパじゃない。

「決めてるんだ、俺は-―。おまえが過去にしてきたことのすべてを受け入れる。 (略) 許しがたい罪について、咎める奴がいたら、俺もいっしょにその非難と罰を受ける」
「罰?」
「おまえとともに生きるのは、そういうことだと思っている」

アロン、あんた凄いわ。

彼らの最大の正念場は本編や『Knock Knock』の時間軸じゃなくて、その後、ショーンがアロンの世界の常識やモラルを内面化していき、アロンの家族や友人などとの親しい関係ができあがってからなんじゃないかなーと思います。例えば、改めて人の命を奪うことの罪深さを自覚したとき。ウィリアムも示唆していましたね。

「受け入れたとき、あいつは壊れるかもしれない。自分のしてきたことが、どれだけ厭わしいことか、理屈ではなく、あいつ自身がそれを実感したとき――」

あるいはショーンの過去が周囲にばれて糾弾されるとき。ショーンの交友関係が広がって親しい人が増えれば増えるほど、周囲からの信頼を失うことは辛くなりますよね。
アロンとショーンのカップルとしての絆を本当に試されるのはやはりこうなったときなのでしょう。そんな過酷な事態に直面した2人を読んでみたいような、読んでみたくないような。


世間の価値観、規範、モラル、良くも悪くもそういったものを内面化していないショーン。殺人行為に関しては負の面かもしれませんが、一方で自分の感情には素直な面もあるという長所もあります。普通の成人男性なら内心そう思っていても言うのを躊躇うような

「アロンのぬいぐるみたち、どれも触ったら気持ち良くて、あったかい感じがして、好きになったんだ」

という台詞をはっきり口に出したり、アロンへの愛情表現を積極的に行っていたり、

「俺とアロンも結婚できるといいのにな」

と当時にしては相当リベラルなことも言ったりします。社会的に認められていないことでも好きなものは好きだしアロンは自分にとっては大切なんだ、ということをショーンは掴んでいるわけですね。愛情深く包容力のあるアロンを好きになったのはショーンが先で、積極的にアプローチをするのもショーンからです。ショーンは人を見る目があるんじゃないかな。


余談。催眠術が使える殺し屋ってのも怖いけど、お金に困って患者の情報を売る精神科医というのも登場していて超怖いと思いました。

もう一つ、怖かったもの。手の爪を剥がされる拷問シーンが作中にありますが、こういう拷問ってよく創作物の中で出てきますよね。爪ってはがされてももう一回生えてくるんだろうか?、という疑問を昔から持っているんですが、怖くてその答えを検索できないままでおります。謎だ。はえるのか、はえないのか、どっちなんだろうか。