sorachinoのブログ

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榎田尤利 『犬ほど素敵な商売はない』

犬ほど素敵な商売はない (SHYノベルス164)

犬ほど素敵な商売はない (SHYノベルス164)

  • 受け:三浦倖生(23)
  • 攻め:轡田清巳(38)

 あとがき曰く「わんこと御主人様の」物語とのこと。デートクラブ所属の受けが犬、派遣先の客である攻めが御主人様です。
 あちこちの書評ブログで評判が良いのでずっと探していた本でした。恥ずかしながらこの作品には大好物なキーワードがいっぱい詰まっていたので、やっと見つけた時は嬉しかったです。期待通り面白かった!

悪い子だ。発情してしまったのか?自覚のあるろくでなし・三浦倖夫は、うだるように暑い夏のある日、会員制のデートクラブ「Pet Lovers」から「犬」として、寡黙で美しい男・轡田の屋敷に派遣される。そこで倖夫を待っていたのは厳格な主人轡田の厳しい躾の日々だった。人でありながら犬扱いされることへの屈辱と羞恥。そして、身体の奥底に感じる正体不明の熱・・・次第に深みにはまっていくふたりだったが!?

【萌えたところ、好きなところ】

犬とご主人様ごっこ

 この作品では、一種のSM的な関係が、受けと攻めが恋愛に至るためのツールとして機能しています。その機能の仕方が凄く上手かった。本書の魅力は、最初は本物の犬のように躾けられることへの屈辱感と反発を感じていたはずの受けが、じわじわと“犬”として攻めに飼われる生活に心地よさを覚えてのめり込んでいくようになるという過程だと思います。

 特に冒頭から中盤にかけては、読んでいる最中、あまりに一つ一つのエピソードがツボすぎてたまりませんでした! まず冒頭の床の描写には四つん這いフラグ!と期待が高まり、また、攻めの

「きちんと目を見なさい」

という命令や床に頭を押し付けたりという轡田の手強そうなご主人様っぷりに感心し、さらにお散歩中公衆の面前でご主人様の手からカナッペを食べた倖生の予想を上回るわんこっぷりに驚いたり、大変楽しく読みました。
 それにしてもキャンキャンなく愛くるしい小型犬タイプじゃなくて大型犬タイプの長身のわんこ受けって初めて読んだかも。可愛いー。

 それと、鞭で体を叩いたり熱い蝋燭を垂らしたりなどのハードなSM場面や、攻めが受けに強姦したり暴力を振るって恐怖で支配するという場面は無いなので読みやすかったです。攻めが生真面目に受けの健康に気を使っている描写も多く、読者は安心して萌えられます。

 飼い主と犬という閉じられた世界はどこか奇妙で歪んでいるけれど、そこに流れる空気は穏やかで、むしろ甘美ですらあります。犬とご主人様という関係性を築くことで慰撫されているのは受けを支配する攻めだけではない。従属する受けもまた平安と癒しを得ている。孤独だった二人の共依存といえば共依存なのかもしれない。でも彼らの間に漂う雰囲気はとても魅力的だったなぁ。

真面目に変態な攻め

 それと、攻めの轡田のキャラがとてもいいです。長身の美しい男。物静かで厳格、でも優しくてとびきり愛情深い主人。この愛情深い部分がしっかり描写されていたからこそ犬扱いされて犬になりきってしまう、ある意味“悪趣味”かつ“滑稽”なシーンにあんなに萌えるんだろうなぁと思います。受けをたっぷり可愛がってるのが伝わってくるのは良いですよね。

 そして何より轡田は真顔で堂々と変態っぽいことを言うのがいい!彼は相手を犬として扱うプレイをするとき、物凄く真剣なんですよね。ヘラヘラ笑いながら斜に構えて適当にやるのでもなく、ニヤニヤしながら残虐さを見せつけて恐怖で相手を縛るのでもなく、ただひたすら真面目に、本気で、根気強く、地道に倖生とのプレイに取り組むのですよ。この真剣さがツボでした。
 轡田は轡田なりの切実な方法で、倖生に真剣に向き合い働きかけているんだなぁというのがしみじみ伝わってくるんですよー。

あまあま。ラブがたっぷり!

 萌えたシーンは上記で紹介した犬として扱う場面をはじめとして本当にいっぱいあるのですが、一番らぶらぶなのはラスト近くのピロートークかなと思います。

攻めの轡田が自身の独占欲の強さを受けに知らしめようとする台詞を言った後で、けれど自分が死んでも化けて出て受けを困らせたりはしない。お前には幸せになって欲しいんだ、という主旨の台詞を言うんですよ。

これがね、凄くあっま―――――――い!のです。甘い。甘い。極甘。砂糖の海。萌える。独占欲とか支配欲の強そうな攻めだと「裏切ったら殺してやる」とか「お前を残して死ねるものか。俺が死んだ後他の奴にもってかれるくらいなら一緒に連れて逝く」みたいな狂的というか過激な反応を返すパターンも多いけれど、あえて轡田みたいなタイプのキャラがいかにも執着心の強そうな台詞を言ったすぐ後でこんな弱気な台詞を吐くというのもホント萌えるわー。これはアレか、やっぱりご主人様っぽさとのギャップ萌えってやつだろうか。


【その他】

・轡田の職業がモデル事務所の社長というのには非常に驚きました。浮ついたところが無いので、なんとなく私は検事などのお堅い法律関係か研究職のイメージがありましたよ。あまり華やかな芸能界という柄じゃないような…。まあでも成功しているとのことですし、面倒見が良いのを考えれば合っているのでしょう。いやホントマジでこの人の面倒見の良さは半端ない気がする。


・作中で随分散財していてもまったくびくともしていないあたり、凄まじい甲斐性の持ち主のようです。どれだけ儲けてるんだ轡田さん。


・倖生はボルゾイに似ているらしい。犬に詳しくないのでボルゾイってどんな犬?と思って検索してみたら、確かにすっきりとした立ち姿の優美な犬でした。


・このカップル、15歳差ですから結構年が離れていますね。年の差カップル好きとしては嬉しい。


・眼球舐めってはじめて知った…。びっくりした…。そっかそういう愛撫もありだったのか。目から鱗<眼球だけに


・正直なところ、ラスト近くの「犬としてではなく恋人として轡田の家で〜」という文には少し残念に思う部分があったりもします。いや、その、あまりに犬と御主人様の関係性がツボだったもので…。それに、もちろん人間の恋人同士として結ばれたことで言葉で愛を伝え合うようになったのは確かだとは思うんですが、せっかく変態的というか他のカップルとは一味違う独自の関係の深め方をしたのだからそれを捨て去ってしまうのは惜しい気がする。犬と飼い主という関係性を残したまま生涯パートナーシップを続けるカップルというのも良いんじゃないかなー。他ならぬ轡田と倖生の二人だからこそ作り上げた関係性であり絆でもあったわけですから。というわけで、“恋人としてではなく犬として轡田の家で〜”や、“犬かつ恋人として轡田の家で〜”という決着のつけ方も読んでみたかった気がします。


志水ゆきさんの挿絵、雰囲気がストーリーにぴったりで良かったです。特に散歩のシーンと倖生が後ろから轡田に肩に噛み付かれている時の絵が好きだ。


まとめ

 しみじみ美味しい作品でした。 


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