sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説、ミステリ小説、アニメ、ドラマ等のジャンルごった煮読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。ネタバレ多数、ご注意ください。コメント大歓迎です。不定期更新。

鹿乃しうこ 『君さえいれば…』

 『君さえいれば… 完全版』という新装版も発行されているようですが、私が持っているのはかなり前に購入したBAMBOO COMICS 2001年12月17日初版発行の旧版なので、この記事もそれに沿った内容になります。旧版は『完全版』とは異なり、『君さえいれば…』の第一話が収録されておらず読めるのは二話目からとなっています。二人が出来上がるまでのストーリーが描かれた第一話を読めないのは残念ですが、読まなくても状況はわかりますし二話目からでも充分面白かったです。

  • 町田謙二郎(26)
  • 町田耕造(45)

耕造と謙二郎は娘であり妻でもある奈々子亡き後も一つ屋根の下で暮らし続ける一見仲の良い義理の親子。しかし実は謙二郎は最初から奈々子の父・耕造に想いを寄せていて、病弱な奈々子も全てを承知で構造を謙二郎に託したのだった。真実を知った耕造は…?

舅と婿という珍しすぎるカップル

 表題作の『君さえいれば…』は、親子ほどに年の差のあるリバカップルのお話。この作品の何が珍しいって、四十路を越えた男ヤモメの舅と、若く情熱的な娘婿との恋愛が描かれているところです。耕造と謙二郎は、同じ会社の上司と部下であり、戸籍上は義理の父と娘婿でもあり、実は秘密の恋人同士でもある関係なんです。この複雑で密接な関係こそがこの作品の強力な売りであり面白さの一つなのですが、いやー、作者さん、凄い思い切ったカップルを作り出しましたよね! 

 スキャンダラスな間柄のお話なんですが、互いの妻は既に鬼籍に入っていて義父と義理の息子といっても重苦しい背徳感や葛藤や泥沼状態はありません。最初から出来上がってるカップルなのでむしろ全編通してラブラブという印象でした。職場も一緒でプライベートでも一緒でいつもイチャイチャしてて本当に仲良しです。犬を可愛がるエピソードもとても微笑ましいです。

 とはいえ、孫の顔が見たい謙二朗の母がしきりに再婚をせっつくため、ついに2人は謙二郎の実家にカミングアウトする羽目になる、という重大局面を迎えるのでした。母と弟を前にして啖呵を切る謙二郎、これは彼の強気っぷりがよくわかるシーンです。

「全くあんたって子は……昔っから情けないくらいオクテなんだから」
「オクテ?」
「だってあんたうちに女の子呼んだことあった? ないでしょう。バレンタインだ誕生日だってさんざんプレゼント貰っても連れて来るのは男の子ばかり」
「…何だよ。兄貴の彼女が来たら来たでいちいちケチつけてたくせに。俺のダチが二枚目揃いだって鼻の下伸ばしてたのぁ誰だ!?」
「なっそんなの今関係ないでしょーがっ」
「やっ…やめろよ兄貴も母さんも…っ。町田さんの前で恥ずかしいだろ」
「…あるんだよ。関係あるんだよ母さん」
「…?」
「母さんが鼻の下伸ばしてたあいつら全部俺の彼氏だったんだからな」

お母さんにとっては爆弾発言でしたでしょうね、これ。まぁ、でも謙二郎がオクテというのは誤解にも程がありますな。むしろ結構性には積極的なタイプでしょうから。
そして、この流れからの耕造の

「謙二郎君を僕に下さい」

は、やっぱり盛り上がるんですよね。 
コメディとエロ、そしてそこへカミングアウトと和解等家族ネタも混ぜ込んでくる鹿乃さん、上手いです。


オヤジキャラが可愛い

 耕造というオヤジキャラクターの愛らしさ(?)も凄く良かったです。耕造はオヤジですが、お茶目で可愛げがあるキャラなせいか、耕造受けも違和感はありません。若々しくて一途な熱血男の謙二郎に比べて、どちらかといえばおっとり天然系。ゴルフは下手なようですがお腹も出ていなくて良い体をしていますし、もちろん禿げてもいません。ルックスの良いおじさんです。

 ちなみに45歳とのことですが、年の割には老けているような………50代くらいに見えます。うちの職場にいる40代半ばはもっと若々しいですね。

濡れ場がすごい

 さすが鹿乃さん作品と言うべきか、この『君さえいれば…』は非常に性描写が強いです。情熱のままにがっぷり組み合う!という感じの熱々な濡れ場の数々……凄い、の一言です。

 しかもリバですし。海外のスラッシュ文化だとリバも多いと聞きますが、やはり日本のBL市場だと受け攻め固定が圧倒的に多いので、リバ作品は本当に貴重ですよね。

 ちなみに同時収録の読みきり短編『ライトハンドマン』もエロてんこ盛りでした。こちらは16歳の高校生が受けで、攻めは受けの父親である大学教授の教え子です。


 

【その他】

  • 謙二郎の友人の井沢って奥さん持ちだったのんですね!! よしながふみさんの『ソルフェージュ』に登場した後藤先生が妻子持ちというのと同じくらい意外でしたよ。絶対ゲイだと思ってた…w
  • 「鼻の下を伸ばす」という慣用句を男性を眼差す女性に対して使用しているのを初めて見ました。別に女性に対して使っても間違いではないのでしょうけれども、なんか“鼻の下を伸ばした母親”の絵を想像すると笑ってしまうな。こういう鹿乃しうこさんの会話文のセンスって好きです。あと母と息子の男の好みが結構一致していそうなのもさすが親子ですw面食いw
  • 社員旅行先の温泉で浴衣姿の謙二郎と耕造が卓球しているシーンでは、数年前に流れていたトヨエツと山崎努が宣伝していたビールのCMを思い出しました。このシリーズのCM、結構好きだったんですよ。懐かしいです。

【まとめ】

15年ほど前の作品ですが、今読んでも面白いです。天然の可愛いオヤジキャラ、年の差カップル、リバ等に萌える方にお勧めです。ただし、購入する時はせっかくなので『君さえいれば… 完全版』の方にしましょう。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL漫画感想へ
にほんブログ村

トジツキハジメ 『蝶尾』

蝶尾 (GUSH COMICS)


単行本のカバーの絵が大変美しかったので買ってみました。

『蝶尾』『ロザリオス』『アトリエ』『The day was not fine』『ウサマン』の5作品が収録された短編集です。前者4つがBL漫画、最後の『ウサマン』のみ著者のペットのウサギに関するエッセイ漫画でした。

好みだなぁと感じた『蝶尾』『ロザリオス』『アトリエ』の3作を中心に感想を書きました。


表題作『蝶尾』あらすじ

文学作家の平瀬はある日、好いていた編集者から結婚の報告を受けた。そんな平瀬を蝶尾は懸命に慰めてくれる。「僕は先生が大好きです」彼に似た顔立ちで、平瀬の想いを叶えようとするいじらしい蝶尾。平瀬は彼を想いながら、幾度も蝶尾を抱き――――――。

攻め:平瀬
受け:蝶尾

幻想文学の小説家と人外の存在との恋を描いています。人外ものというジャンルだと猛獣系や犬猫鳥あたりが人気だと思いますが、こちらの作品は金魚なのが珍しいですね。蝶の翅を思わせる華やかな尾びれの形をしていることから蝶尾という典雅な名前をもつ品種です。

表紙が美しい

カバー絵、すごく素敵ですよね! 差し込んだ夏の陽が微妙な陰影を作り出す日本家屋、漂う空気はどこか気だるげで、白い開襟シャツの壮年の男と、和装の青年と、そして金魚鉢。卓上の金魚鉢の位置も絶妙で、青年に重なるように置かれているのは、青年がこの金魚と同一の存在であることを示しているのでしょう。水草が着物の裾模様になっているのも、青年とこの金魚鉢の世界の連続性を思わせます。とても物語を感じさせるイラストで、惹き込まれました。

いじらしい蝶尾

本編もカバー絵通りの静謐な雰囲気が溢れていました。

蝶尾は、小説家が想いを寄せる文学誌の編集者にそっくりな顔の青年の姿で現れ、小説家の家で一緒に暮らしています。来客のためにお茶を用意したり、買い物に行ったり、まるで夫に寄り添う淑やかな妻のようです。小説家の方も、もはや自分が飼っている魚が人の姿になって自宅で細々と家事をこなしている怪奇を受け入れる段階に至っており、甘えていることを自覚しつつも蝶尾との情事に溺れています。

最初、私は蝶尾は小説家の妄想の産物だったというブラックなオチになっちゃったらどうしようと心配していました。あまりにも蝶尾が健気に小説家を恋い慕っているものですから、てっきりアンハッピーエンドのフラグなのかと。ラストで第三者も存在を認識していることから人の姿の蝶尾が幻ではないことが確定し、ああ良かったなぁと一安心しましたよ。

植木屋が見た蝶尾の顔立ちはどんなものだったのでしょうね。はっきりとは描かれていないので読者の想像に委ねられています。編集者そっくり、あるいは植木屋自身の理想の美男だったのかもしれませんが、私としては本来の蝶尾自身の顔立ち(魚の顔とか魚っぽい顔立ちという意味ではなく)だったりしたら面白いなと思います。小説家が編集者へ恋をしていた時は蝶尾は編集者そっくりの姿を取っていたけれど、編集者への恋が終わればもはや真似をする必要もなくなるので、蝶尾自身の顔へ徐々に変わっていったのでは…?などと想像してしまいました。

今後も小説家と彼を慕う蝶尾は、外界の喧騒とは隔絶された緑豊かな日本家屋の中でひっそりと時間を過ごしていくのでしょう。


短編『ロザリオス』について

同じ日に洗礼を受けた二人の少年の10年間のお話です。お互いへの気持ちはあるはずなのに、道を違えていく幼馴染。家庭環境から、非行少年達と付き合うようになり、学校を止め、裏社会に入っていく男の子。本人も大変ですが、身近で堕ちていくさまを見守るしかない立場もツラいですね。大団円のハッピーエンドではないし切ないエンドなのですが、語りすぎない淡々とした展開で良い作品だなと思いました。

読んでいて「あれ?」と気になった点があります。それは主人公が神父の息子であること。神父は普通妻帯不可なので子供はいません。一瞬、妻帯可能なプロテスタントの牧師とすべきところを誤字で神父になってしまったのか?とも思いましたが、作品の重要なモチーフになっているロザリオは基本カトリック信仰で使われるものですから、カトリックであれば神父のはずです。しかし、教会の一番大きな十字架にキリストが磔られていない点はプロテスタントっぽいんですよね。ひょっとして作品の中でカトリックプロテスタントの特徴を意図的に混合して描いているんでしょうかね。


短編『アトリエ』について

この単行本は表紙だけではなく裏表紙も非常に美しくて私は好きなんですが、裏表紙のイラストに登場しているのが『アトリエ』の主要人物たちです。この短編は、美術専門学校講師とその美専の学生のお話でした。

講師に迫る若者が直球で可愛いかったです。青春真っ只中のパワーと勢いで押し切って講師をゲットしてほしいです。

美術講師のヴィジュアルのデザインや服装は、とてもアート業界にいそうな感じがしまて芸術家設定に説得力がありました。トジツキさんの絵の魅力を存分に活かしたキャラクターだと思います。浮き世離れしているおじさんですが、純情な人ですよね、この人。


その他

短編『The day was not fine』について

大学生同士でかくれんぼをする話でした。美坊主とは珍しい。

短編『ウサマン』について

トジツキさんが飼っているウサギの動物エッセイ漫画でした。全部で31頁ですので、結構分量があります。確かに帯には

兎エッセイも同時収録。

とは書いてあるけど、こんなに多いとは思いませんでしたよ。せいぜい数ページかなと思っていたので驚きました。うさぎエッセイの冒頭には、この漫画を単行本に収録した経緯について作者のコメントが載っています。

BLのコミックスでそんなの別に読みたかねぇよ!とかその分薄くして値段安くしろよ!とか私だったら思っちゃうのだけれど、そんなエゴよかもったいないから入れましょう。というエコが採用されました。

そうなんですね(笑)。もったい精神だったのか。まぁ安くしろとまでは思わなかったけど、31頁もあるなら、やっぱりBL漫画の短編をもう一つ入れてほしかったというのが正直な気持ちですが。『アトリエ』の続編とか、ちょっと読んでみたかったですね。


基本情報

  • 著者:トジツキハジメ
  • 発行所:株式会社海王社
  • レーベル:GUSH COMICS
  • 初版発行年:2011年5月20日
  • 定価:本体619円+税
  • カバーデザイン:J.kawanabe.


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL漫画感想へ
にほんブログ村

ジョシュ・ラニョン 『フェア・ゲーム』

フェア・ゲーム (モノクローム・ロマンス文庫)

フェア・ゲーム (モノクローム・ロマンス文庫)

翻訳:冬斗亜紀


アメリカ人作家による、現代アメリカが舞台の小説です。
男子大学生の失踪事件の謎を追うミステリー要素、主人公とその元恋人とが復縁するロマンス要素、その二つが上手く絡み合ったお話でした。面白かったです。


あらすじ

元FBI特別捜査官で現在は大学で歴史を教えるエリオットの元に、失踪した学生の捜索依頼が持ち込まれた。捜査協力にあたる担当捜査官を前にしたエリオットは動揺を隠せなかった。 そこには一番会いたくない、けれど決して忘れられない男、タッカーの姿があった。 タッカーはかつてのエリオットの同僚で恋人だった。

  • 主人公:エリオット・ミルズ(37)
  • 相手:タッカー・ランス

ミステリー部分について

若い男性が被害者となる連続殺人事件の犯人の正体が発覚するのはクライマックスなのですが、その犯行理由というのが実に猟奇的で、また妙にエロチックな印象があり、さすがラニョンさん……!と思いました。

犯人があんなにもあからさまに犯行を明示しているのに、誰もがなかなか気づかない状況というのも面白い状況ですよね。誰が犯人かは終盤までわからず、その中で主人公エリオットにも危険が迫ることとなり、読んでいてハラハラさせられました。

ただ、一つだけ難点をあげるとすれば、若く健康な被害者多数を相手にあれだけのことを成し遂げる体力はあの犯人にあったんだろうか?とちょっと疑問も持ちましたが。


恋愛部分に萌える

硬派な筆致という印象を受けましたし、恋愛パートの分量もそれほど多いというわけではありませんが、私は主人公と元恋人の関係にとても萌えました…!ちなみに双方男性です。

主人公のエリオットは頑固で、相手のタッカーも肝心な時に言葉足らず。なので、一度極限状態ですれ違いが起きると別れに繋がってしまいましたが、お互いまだ相手を忘れられていないため、一度しっかり話し合うことができればやり直せる関係なんですよね、この二人は。

タッカーはワイルドでタフな男性ですが、何度も素直に胸中を晒すシーンがあります。エリオット視点で物語は進むものの、タッカーがエリオットに未練があって情熱的な想いを持ち続けていることはよく伝わってくるんですよ。

タッカー、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。エリオットの危機にはちゃんといつも助けに入るし、良い奴です。エリオット自身も考えていたことですが、心の内を晒せるタッカーの素直さと勇敢さがなければ、この二人はずっとすれ違ったままで終わっていたことでしょう。二人が再会できてよかったです。後半以降、やけぼっくいに火がついて親しげに軽口や皮肉を言い合ったりするシーンは楽しかったです。


風光明媚なシアトルという舞台

このお話の舞台は、シアトル都市圏(グレイターシアトル)です。あまりアメリカの地理には詳しくないのでシアトルと聞くとマリナーズくらいしかイメージが浮かばなかったのですが、本書にはちゃんと舞台となる土地の地図がついています。そういう丁寧さ、読者に親切で良いですね! おかげさまで、米国北部のカナダと接する所にシアトルの属するワシントン州が位置しているということを本書で初めて知りました。
 
この小説では頻繁に地名が出てきます。グーグルマップ等でシアトル周辺を検索して作品世界の雰囲気を思い浮かべながら読み進めてみましたが、とても楽しかったです。

シアトルのバラード地区に主人公の父親の家があり、また主人公の恋人タッカーもシアトル市内に在住。シアトル中心部から北に車で1時間程度の距離のタコマ市には、主人公の勤務先のピューゼットサウンド大学(PSU)があります。

タコマの南西に位置するステイラクームのフェリー乗り場から船旅を経て、ピュージェット湾に浮かぶグース島に渡ると主人公が一人で暮らす自宅があります。

エリオットは陽光が差し込むキッチンでコーヒーを淹れた。窓からのぞむ木々の向こうは海で、彼はコーヒーを飲みながら、深い入り江の海面から身を躍らせるシャチの姿を眺めた。

これ、土曜日の朝に自宅のキッチンでくつろぐ主人公の描写なんですが、家の窓から海中のシャチが見えるって凄くないですか? いやー、優雅で羨ましい環境です。いいなー!ちなみに、散歩に出れば野ウサギや鹿やキツツキ、オオアオサギと遭遇する様子も描かれていて、なんとも自然豊かな島の描写に驚きました。オフは海を眺めながらのんびり島暮らし、オンになると車ごとフェリーに乗って本土へ出勤、タコマで働いたり、都市部のシアトルに行って人と会ったり――――良いですねぇ、そういう暮らし方。

ちなみに、本書は本文でも付属の地図でもエリオットの住む島はグース島となっているんですが、グーグルマップだとその位置にある島はアンダーソン島と表示してあるんですよ。うーん、なんで違っているんだろうか?明らかにモデルはアンダーソン島ですが、あえて作中では架空の名前グース島をつけたんでしょうか?

 ところで、グース島には及ばないとしても、シアトル自体、都市部でありながら水と緑が溢れるかなり風光明媚な土地だということが今回わかったので、とても旅行してみたくなりました。
 

余談

  • 海外が舞台の翻訳小説では、日本に住む者にとってあまり身近でない単語が使われていることが多いですよね。実際、本筋とは関係ない海外生活の何気ない描写の数々を本書でも楽しめたので、海外事情を知ることができるのは翻訳小説を読む醍醐味だよなーと改めてしみじみ思いました。
  • 例えば、食べ物。本作には料理シーンがよく出てくるのですが、見慣れない食材もたくさん使われていました。「グリークシュリンプとリーキの炒め物」のリーキ、私はこれを知らなかったので思わずググってしまいました。リーキとはネギのような野菜で、いわゆるポロ葱や西洋ニラネギと呼ばれるものなんだとか。「マスカルポーネチーズだよ。それでリガトーニにかけるマッシュルームクリームを作る」のリガトーニはパスタの一種だろうという予想はついたもののどんな形状だかわからず、これもグーグル先生に聞いてみました。マカロニのような形で筋が入ったショートパスタを指すようです。イカ料理にかけた「マリナラソース」は、トマトソースがベースでオレガノが加えられたもののことだそうな。「ズッパというトスカーナのスープ」は、ソーセージあるいはベーコン、玉ねぎ、にんにく、ジャガイモ、ケール等を入れて煮込んだ具沢山スープ。「ポテトと豆のエンチラーダ」のエンチラーダは、トウモロコシのトルティーヤを巻いてフィリング(具材)を詰め、唐辛子のソースをかけた料理とのこと。どれも美味しそうです。特にズッパとエンチラーダは食べてみたいです。
  • 食べ物と言えば、二人で夜を過ごした翌朝タッカーがブルーベリーのパンケーキを焼いて二人で食べているのを読んで、タッカーみたいなワイルドでゴツイ男性が恋人にパンケーキ焼いちゃう図を想像するとなんか可愛いくて萌えました。まぁ、でも日本人の私からするとパンケーキは女性が好むイメージが強いけれど、アメリカ人にとってはパンケーキを朝食に食べるのは男女問わずごく当然のことなのかもしれませんが。
  • 満月を見たアメリカ人の主人公がその模様から「月に住むという老人」を思い浮かべたシーンにも日本人との違いが出ていて面白かったです。月に住むものといえば日本では(というか東アジアでは)ウサギが一般的ですが、老人を読み取る文化もあるんですね。
  • 「ブラックヒストリー期間」というのが出てきまして、黒人にかかわる人権啓蒙期間だと思うんですが、こういう言葉がさらっと会話の中に出てくるのがアメリカっぽいです。
  • エリオット、モテモテですね~。若い女子学生にも、若い男子学生にも迫られてました。特に、バーで自分の大学の教授(しかも20歳近く年上)に「一杯オゴらせてもらえませんか、エリオット?」と口説きに入る粋がった男子学生ジムには思わず笑いました。それ学生が社会人に言う台詞じゃないでしょうよw このジムはなんだか憎めないキャラクターでして、私は彼の登場シーンがくるたびにニヤついてしまいました。
  • FBI辞職後に歴史学の大学教授になったエリオットですが、いくらFBIに入る前に博士号取っていたからって、こんなにも鮮やかに転身できるって凄すぎなのでは。FBIでの捜査経験を評価されて犯罪学の教授に採用というのなら納得できるんですけどね。
  • ラストでタッカーがエリオットの家に引っ越してきて同棲することを二人が合意していましたが、殺人事件の起こった事故物件に住むのって怖くないのでしょうかね?二人とも捜査官の経験があるからそういうのは気にしないんでしょうか。死体が見つかった寝室のベッドはさすがに新品に入れ替えるのだと思いますが……。全面的に改装とかすれば大丈夫なのかな?

まとめ

とても面白かったです。米国ではこのシリーズは続刊の2巻が発売済だそうですが、日本でも早く読めるようになれば嬉しいです。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログへ
にほんブログ村

えすとえむ 『作品ナンバー20』

作品ナンバー20 (ビーボーイコミックス)

作品ナンバー20 (ビーボーイコミックス)

 『作品N°20』『ジャスト ノット ライク ア メリーゴーランド』『ラスゲアード』『en el parque』『le visiteur』の5つが収録されている短編漫画集です。

 それにしてもこの本、凄まじく買いにくい表紙でした……。ご覧の通り、素っ裸の男を抱きかかえる男がドドン!!と描かれているのですから、レジへ持っていくのに多大な勇気を要します。読者の愛を試しているのか!と書店のBL棚の前で煩悶しましたよ。まぁ店頭で買うんじゃなくてネットで買えば良いのでしょうが、近所の書店のBL棚が縮小されないよう出来るだけ店舗で買うようにしておりまして、恥ずかしさを堪えつつなんとか買ってきました。

 表紙に描かれているのは、表題作『作品N°20』に登場する絵画修復師モーリスと絵の中から飛び出してきた美青年イヴです。表紙だけではなく、作品中にも多数イヴのヌードが描かれており、しかもどれも素晴らしく美しいカットだらけで、えすとえむさんイヴのヌード描くの楽しかっただろうなー、と読んでいて思いました。本当に、この方の描く肉体は肉感的で美しいです。

 19世紀の絵画に描かれた美青年が絵から抜け出し、愛する人を求めて21世紀のパリを出歩く、というファンタジックな設定、面白いですよね。一休さんの頓知話屏風の虎を地で行ってます。「モナ・リザ」のモデルの人とか、もし絵から出てこれたら世界中の美術ファンが大喜びしそうです。

 作中にキャラの名前が被るケースが二つもあって少しそれは偶然が重なりすぎではないかと正直気になりましたが、画家のモーリスを求めるイヴの愛の深さが印象的で、短編としてすっきり綺麗にまとまったお話でした。



 『ラスゲアード』はスペインのグラナダを舞台にしたお話です。読後感が爽快で、表題作よりもこちらの方が好きでした。若い男性フラメンコダンサー・ヘススと、かつては一流の一座で活躍していたが今は小さな店で弾くだけの年配のギタリスト・アルバロのお話です。恋愛って感じの関係というよりは、フラメンコを愛する者同士の師弟愛的な関係という風に私は読み取りましたが、この二人の関係、グッときます。アルバロによって未来への明るい希望を手にしたヘスス。マドリッドで成功する彼の姿を見にマドリッドへやってくるアルバロ、そんな光景を見てみたいです。

 主人公の黒髪キャラのヘススは男前だし色っぽかったです。フラメンコというと女性のイメージが強いんですが、男性ダンサーもいるんですね。しかもスーツ着て踊るのか、と興味深く思いました。情熱的な踊りをスーツでやるってエロいです。
 
 作者はよくスペイン旅行に行くそうで、スペインを舞台にした作品を多数発表していますが(『en el parque』もスペインが舞台です)、その中でもこの『ラスゲアード』は一二を争うほど好きですね。アルハンブラ宮殿から程近いグラナダの歓楽街、石畳の通りにある小さな店に鳴り響くギターの音……現地の音楽が聞こえてきそうな雰囲気が漂っています。作者のスペイン愛がよく伝わってくる作品でした。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL漫画感想へ
にほんブログ村

藤たまき 『密告』


 『出雲』『水を汲みに丘に登った』『ゆりかご』『密告』の4作品が収録された短編漫画集。どれも舞台は現代日本なのですが、全作品とも少し不思議な要素のあるストーリーで、藤さんらしい作品でした。個人的には、上記4作のうち後者2作が特に面白かったです。


『ゆりかご』は、極端に睡眠時間が短いショートスリーパーの受け・センが登場します。面白いですよね、この設定。24時間のうち眠っているのは数分間だけで、あとはずっと起きていられるんですから、もしこんな人が実在したらどれだけ生産性が高いことか。

 攻めの譲はそんなセンと同棲中の恋人ですが、ほぼ眠らないセンの体質に気付いて衝撃を受けます。今まで安らかな眠りを朝まで分け合っていると思っていたのに、恋人は起き出して一人で夜を過ごしていたのか、と。

 結局、センの特異な睡眠状態を治療するという展開に進むのではなく、センは今後もショートスリーパーであり続けるというラストになっています。この結論、なかなか味わい深いと思いました。

 センにとってショートスリーパーであることは自然なことであり、特に健康に害があるわけではありません。けれど人間は異質なものや自分が理解できないものを嫌いますから、センも以前の恋人に「生理的にダメ」とまで言われた経験があり、譲には自分の体質を隠していました。

 ショートスリーパーの登場人物がセンとは別にもう一人登場するのですが、その人物は

「フツーじゃないって…けっこー気を遣うんだから。ただ心配をかけない、ただ信頼を得たい、それだけの為にだって素じゃいられないしなぁ。苦労多いよ」

と語っています。ショートスリーパーは現実世界にいる色々なマイノリティにダブる描き方がされていますね。

 譲は受けの体質を受け入れるとともに、ともに眠ることはできなくても他の手段で愛を分かち合うことを示します。この二人、可愛いなぁ。幸せになってほしいカップルだなぁ、と読んでいてしみじみ思いました。



 『密告』は言霊に怯える主人公・戒のお話です。
 一つ年下の弟・キサ(←木偏に雲という字)が食卓で家族にカミングアウトした四年前、主人公は弟を罵倒しました。

「俺ゲイだから この先男と付き合っちゃうかもしれないけど そこんとこヨロシク」
 その時キサはまだ中二だったけど 運動部でまだドーブツじみていた僕とは ずい分性格も違ってて…
「ダメだ!そんなのは良くない!やめなさい!」
「良いとかやめるじゃなく俺ただ言っときたかった」
 あの日家族にキサが何を言わんとしていたのか 当時の僕が僅かでも理解していたのかどうか… だけど父が泣いたのでなんとしても父の味方をするべきだと思ったのだ
「おいキサ! その…何?ゲイ?恋愛? そーゆーのやめろよ 父さん泣いてたじゃん」
「兄さんには関係ない 俺 両親に話がしたかっただけだ 兄貴どーせまだそーゆーのわかんないだろ」
「何だよそれ!何だっていーからそーゆーのやめろってんだよ!くだらねー!汚らしーし…それに…」
「――はぁ?」
 無知でよーちでまったく口の立つ子供じゃなかったけど 父が泣いたのがショックで… とにかく知っている限りの罵詈雑言をひっぱり出した 
  [~中略~]
 キサの襟足は逆立って怒りは目に見える程だった
「――戒お前は…」
 その時以来弟は僕を呼び捨てにした

このかつて自分が放った暴言によって、男性と恋に落ちた4年後の受けは追い詰められていくことになります。

 それにしてもこの作品は、主人公とその恋人より弟のキサのキャラが印象的でして、作者さんもあとがきでキサの読者人気が高いと書いてましたが、それも頷けます。中二でこれだけはっきり自分の意思を述べられるのは凄いし、色々な意味で精神的に大人ですよね。



 『水を汲みに丘に登った』では、受けの音貝次流(おとがいじる)が、大学のサークル活動でボランティアに赴いた先で攻めと出会います。手が早いにも程があるよ攻め!とか、流されすぎな上にぼんやりしすぎだよ受け!とか、遵法意識どうした!とか、いろいろ突っ込みどころはありましたが、2010年頃日本で話題になった高齢者所在不明問題を2005年の時点で本作に描いていた藤さんは先見の明があるかも。

 あと、攻めの口説き文句はユニークで面白かったですよ。テーブルを挟み二人が向かい合って座っているとき、

「君はいい奴だジル。その顎もいいし」
「――アゴ?」
「さっき口をおさえた時触ったから」
「ああ…――?」
「オトガイは“したあご”の頤って字かと思ったくらい 惚れ惚れしたね」
「――はぁ…」
「つまり俺ゲイで」
「――…!」
「意固地な老人の世話で毎日退屈で…。そこへ君が来た。髪が良い顎が良い。惚れたかもしれない」

会話の主導権を握りつつ、不敵な笑みを浮かべ、受けの手に自分の手を重ねるなど余裕溢れる態度でさりげなくボディタッチする攻め、侮れない人ですね~。しかもいくら受けの名前が音貝だからって顎を褒める口説き文句というのも個性的で面白いです。



 『出雲』について。付き合った相手が死ぬという経験を二回繰り返した受け。また同じことが起こることを心配し新たに好きな人が出来ても積極的になれません。そんな受けに真正面から向き合い「呪い」を解除する攻めはデキる男でした。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL漫画感想へ
にほんブログ村