sorachinoのブログ

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トジツキハジメ 『蝶尾』

蝶尾 (GUSH COMICS)


単行本のカバーの絵が大変美しかったので買ってみました。

『蝶尾』『ロザリオス』『アトリエ』『The day was not fine』『ウサマン』の5作品が収録された短編集です。前者4つがBL漫画、最後の『ウサマン』のみ著者のペットのウサギに関するエッセイ漫画でした。

好みだなぁと感じた『蝶尾』『ロザリオス』『アトリエ』の3作を中心に感想を書きました。


表題作『蝶尾』あらすじ

文学作家の平瀬はある日、好いていた編集者から結婚の報告を受けた。そんな平瀬を蝶尾は懸命に慰めてくれる。「僕は先生が大好きです」彼に似た顔立ちで、平瀬の想いを叶えようとするいじらしい蝶尾。平瀬は彼を想いながら、幾度も蝶尾を抱き――――――。

攻め:平瀬
受け:蝶尾

幻想文学の小説家と人外の存在との恋を描いています。人外ものというジャンルだと猛獣系や犬猫鳥あたりが人気だと思いますが、こちらの作品は金魚なのが珍しいですね。蝶の翅を思わせる華やかな尾びれの形をしていることから蝶尾という典雅な名前をもつ品種です。

表紙が美しい

カバー絵、すごく素敵ですよね! 差し込んだ夏の陽が微妙な陰影を作り出す日本家屋、漂う空気はどこか気だるげで、白い開襟シャツの壮年の男と、和装の青年と、そして金魚鉢。卓上の金魚鉢の位置も絶妙で、青年に重なるように置かれているのは、青年がこの金魚と同一の存在であることを示しているのでしょう。水草が着物の裾模様になっているのも、青年とこの金魚鉢の世界の連続性を思わせます。とても物語を感じさせるイラストで、惹き込まれました。

いじらしい蝶尾

本編もカバー絵通りの静謐な雰囲気が溢れていました。

蝶尾は、小説家が想いを寄せる文学誌の編集者にそっくりな顔の青年の姿で現れ、小説家の家で一緒に暮らしています。来客のためにお茶を用意したり、買い物に行ったり、まるで夫に寄り添う淑やかな妻のようです。小説家の方も、もはや自分が飼っている魚が人の姿になって自宅で細々と家事をこなしている怪奇を受け入れる段階に至っており、甘えていることを自覚しつつも蝶尾との情事に溺れています。

最初、私は蝶尾は小説家の妄想の産物だったというブラックなオチになっちゃったらどうしようと心配していました。あまりにも蝶尾が健気に小説家を恋い慕っているものですから、てっきりアンハッピーエンドのフラグなのかと。ラストで第三者も存在を認識していることから人の姿の蝶尾が幻ではないことが確定し、ああ良かったなぁと一安心しましたよ。

植木屋が見た蝶尾の顔立ちはどんなものだったのでしょうね。はっきりとは描かれていないので読者の想像に委ねられています。編集者そっくり、あるいは植木屋自身の理想の美男だったのかもしれませんが、私としては本来の蝶尾自身の顔立ち(魚の顔とか魚っぽい顔立ちという意味ではなく)だったりしたら面白いなと思います。小説家が編集者へ恋をしていた時は蝶尾は編集者そっくりの姿を取っていたけれど、編集者への恋が終わればもはや真似をする必要もなくなるので、蝶尾自身の顔へ徐々に変わっていったのでは…?などと想像してしまいました。

今後も小説家と彼を慕う蝶尾は、外界の喧騒とは隔絶された緑豊かな日本家屋の中でひっそりと時間を過ごしていくのでしょう。


短編『ロザリオス』について

同じ日に洗礼を受けた二人の少年の10年間のお話です。お互いへの気持ちはあるはずなのに、道を違えていく幼馴染。家庭環境から、非行少年達と付き合うようになり、学校を止め、裏社会に入っていく男の子。本人も大変ですが、身近で堕ちていくさまを見守るしかない立場もツラいですね。大団円のハッピーエンドではないし切ないエンドなのですが、語りすぎない淡々とした展開で良い作品だなと思いました。

読んでいて「あれ?」と気になった点があります。それは主人公が神父の息子であること。神父は普通妻帯不可なので子供はいません。一瞬、妻帯可能なプロテスタントの牧師とすべきところを誤字で神父になってしまったのか?とも思いましたが、作品の重要なモチーフになっているロザリオは基本カトリック信仰で使われるものですから、カトリックであれば神父のはずです。しかし、教会の一番大きな十字架にキリストが磔られていない点はプロテスタントっぽいんですよね。ひょっとして作品の中でカトリックプロテスタントの特徴を意図的に混合して描いているんでしょうかね。


短編『アトリエ』について

この単行本は表紙だけではなく裏表紙も非常に美しくて私は好きなんですが、裏表紙のイラストに登場しているのが『アトリエ』の主要人物たちです。この短編は、美術専門学校講師とその美専の学生のお話でした。

講師に迫る若者が直球で可愛いかったです。青春真っ只中のパワーと勢いで押し切って講師をゲットしてほしいです。

美術講師のヴィジュアルのデザインや服装は、とてもアート業界にいそうな感じがしまて芸術家設定に説得力がありました。トジツキさんの絵の魅力を存分に活かしたキャラクターだと思います。浮き世離れしているおじさんですが、純情な人ですよね、この人。


その他

短編『The day was not fine』について

大学生同士でかくれんぼをする話でした。美坊主とは珍しい。

短編『ウサマン』について

トジツキさんが飼っているウサギの動物エッセイ漫画でした。全部で31頁ですので、結構分量があります。確かに帯には

兎エッセイも同時収録。

とは書いてあるけど、こんなに多いとは思いませんでしたよ。せいぜい数ページかなと思っていたので驚きました。うさぎエッセイの冒頭には、この漫画を単行本に収録した経緯について作者のコメントが載っています。

BLのコミックスでそんなの別に読みたかねぇよ!とかその分薄くして値段安くしろよ!とか私だったら思っちゃうのだけれど、そんなエゴよかもったいないから入れましょう。というエコが採用されました。

そうなんですね(笑)。もったい精神だったのか。まぁ安くしろとまでは思わなかったけど、31頁もあるなら、やっぱりBL漫画の短編をもう一つ入れてほしかったというのが正直な気持ちですが。『アトリエ』の続編とか、ちょっと読んでみたかったですね。


基本情報

  • 著者:トジツキハジメ
  • 発行所:株式会社海王社
  • レーベル:GUSH COMICS
  • 初版発行年:2011年5月20日
  • 定価:本体619円+税
  • カバーデザイン:J.kawanabe.


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