かわい有美子 『銀の雫の降る都』
- 作者: かわい有美子,葛西リカコ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2013/03/28
- メディア: 新書
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少しSF風味のファンタジー設定でした。受けは、人造人間が行政の場で記録装置としての役割を担い、上流階級は万一の場合に備えて自らのクローン胚を当然のように育成し、平均寿命が400〜500歳もある、そんな科学技術の進んだ社会の出身です。一方で攻めは、受けの社会によって植民地化された土地の出身。口減らしのための子供の人身売買が横行し、武器といえば剣や弓矢、刺青を部族の誇りとする、そんな活気はあるが粗野な未開の社会です。
このような出身地の社会環境の異なりや、社会階層の差、寿命と年齢の差、そういったものを超えて受けと攻めは結ばれます。攻めが10代前半から受けの手元で養育され、受けの出身社会の教養や礼儀作法を一通り身に着けており、二人の価値観にそれほど隔たりがなかったのも一因でしょう。同時に、二人ともなんとなく似た雰囲気を持っているキャラクターで、惹かれあうのもわかるなぁと思わせるものがありました。二人とも静謐、純粋、清廉、そんな感じの人達で、じんわりと誠実に愛を育んでいる様子が微笑ましいです。
受けの近侍兼攻めの世話係のメルテオールという壮年男性が出てくるのですが、このキャラも良い味を出していました。
それにしても、クローンで恋人が甦るというコンセプトの作品って古今東西たくさんありますが、クローンを本人として愛せるかどうかの葛藤がほとんど描かれていないというのは逆に珍しいような気がしました。