sorachinoのブログ

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近藤史恵 猿若町捕物帳 『巴之丞鹿の子』

巴之丞鹿の子―猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

巴之丞鹿の子―猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

江戸で若い娘だけを狙った連続殺人が起こった。南町奉行所同心の玉島千蔭は、殺された女が皆「巴之丞鹿の子」という人気歌舞伎役者の名がついた帯揚げをしていたことを不審に思う。そして、巴之丞の蔭に浮かぶ吉原の売れっ妓。調べが進むなか新たな被害者が――。はたして真犯人は!? 

助手役:八十吉
探偵役:玉島千蔭


江戸時代を舞台にした推理小説です。時代物だけどサクサク読めます。江戸情緒を存分に漂わせつつ、非常に読みやすい文章を書いてくれる作家さんでした。


この『 巴之丞鹿の子』はシリーズ第1巻です。これに続いて『ほおずき地獄』『にわか大根』『寒椿ゆれる』『土蛍』と、2019年3月現在、シリーズ第5弾まで出版されています。私は『ほおずき地獄』以外は読了済み。

いつも思うんですが、なぜこのシリーズは背表紙等に通し番号つけてないんでしょうかね……不便なのでつけてくれるとありがたいのになぁ。出版社さん、頼みますよ。二巻以降は千蔭の義母であるお駒の結婚・妊娠・出産の流れが出てきて作中の時間はしっかりと流れていることが明白なんですから、やはり刊行順に読む方が楽しいと思います。


本シリーズの探偵役であり実質的な主人公は南町同心で三十前後の青年ですが、彼に付き従う小者の八十吉という中年男の視点で物語は描かれています。この2人だけだと性格も生活もひたすら地味で面白みも色気もないのですが、吉原の花魁や人気者の歌舞伎役者を絡ませることで作品に華やかさを添えています。


江戸を舞台にした時代小説が数ある中で、本作は「猿若町捕物帳」と題するだけあってお芝居や役者に焦点を当てたシリーズにしているのが面白いですね。

猿若町」は、現在の東京都台東区浅草六丁目辺りに位置し、浅草寺に近い土地です。1842年(天保13年)、官許の芝居小屋である中村座市村座河原崎座の3座がこの地に集められ俳優たちが移り住んできたことから、芝居の町・歌舞伎の町として一時はかなり繁栄していたんだとか(残念ながら現在では猿若町という町名は消え、芝居小屋も移転したため一座も残っていません)。

物語の舞台が劇場街ってなんかロマンがあってワクワクしますね。猿若町はいわばブロードウェイのようなものだったのでしょう。お芝居好きの人にとっては堪らないエンタメスポットですよね。


さて、タイトルロールにもなっていて作中で絶大な人気を誇る歌舞伎役者として登場する水木巴之丞は、中村座で活躍する女形です。このキャラクターは、その美しさや妖しい魅力を放っているさまが繰り返し描写されています。

彼が舞台で身につけた鹿の子や半襟は、江戸の若い女性に大流行するんですよね。歌舞伎役者がファッションリーダーでもあったというのは当時の歴史的事実でもありますし、熱狂的なファンの行動は今も昔も変わらないんだなぁ、と面白いです。現代でも、ドラマやアニメで登場した小物をオタクが買い集めることってよく見かけますしね。

芝居の元ネタにしようとして事件に首をつっこんだ中村座付きの脚本家に、堅物の千蔭が激怒する場面があります。千蔭の言う通り、不謹慎ですし、面白半分に娯楽作に仕立て上げられたら被害者が浮かばれない、というのは正論です。ただ、テレビやラジオもない当時の江戸にあって、社会の異変や実際に起きた事件を脚色して舞台に乗せるというメディアとしての役割を歌舞伎が果たしたことも、当時の庶民に大ウケした理由だったんですよね。娯楽でありメディアであり、そんな歌舞伎を担う者としての矜持を巴之丞が作中ではっきりと示したことは、「猿若町」を冠した捕物帳としての芯がビシッと通った場面でした。

ちなみに、一筋縄ではいかない美貌の女形役者というキャラ造形は私好みであるはずなのに、なぜか不思議と私には刺さらないキャラなんですよ巴之丞は……。なんでだろう、我ながら謎(笑)。あまりに女形役者として「らしすぎるから」かも。でも、絶対この人、他の多くの読者の中には熱いファンがいそうなキャラクターだなと思います。

ちなみに、謎解き以外の見所の一つに同心の千蔭・遊女の梅が枝・女形の巴之丞の3者が織りなす微妙な三角関係がありますが、個人的には断然町娘のお袖とお侍さんのカップルの方が気になった恋愛描写でした。お袖の奇妙な思考回路には読んでいてぞわっとしつつなんだか妙な魅力を感じる女の子ですし、朴訥なお侍さんも良い味を出してると思います。まさかSM描写ぶっこんでくるとは思わなかったけども(笑)。


さて、最後に謎解きについてですが、千蔭が謎を追う捜査の過程はとても楽しめました。犯人の動機は、なかなか酷いです。胸糞悪い、の一言。いやお前そんなことで何人も人殺すなよ!自分勝手にもほどがあるよ!と読んでいて腹が立つくらい。被害者の女の子たちが不憫だわ……。千蔭がしっかり逮捕してくれて良かったです。


余談ですが、実は私、この小説を読むまで「猿楽町」と「猿若町」を混同しておりました(笑)。似てません?