sorachinoのブログ

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松岡なつき 『H・Kドラグネット』全4巻

H・Kドラグネット1 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット1 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット2 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット2 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット3 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット3 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット4 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

H・Kドラグネット4 H・Kドラグネット (キャラ文庫)

香港を舞台にしたBL小説です。

私が『H・Kドラグネット』を初めて読んだのはかなり昔の話で、当時はまだ旧装版(1995年~2000年、青磁ビブロス刊行)でした。その後、2011年にキャラ文庫から新装版(↑の書影はこの新装版です)で復刻され、その時は懐かしさから即購入しました。

そして昨年、香港旅行に行ったのを機に全4巻を改めて再読したわけですが、何度読んでもその度に面白いなと思える作品です。


あらすじ

君は、今日から香港マフィアの巨大組織「開心」の後継者候補だ———。ケンカっ早くて気は強いけど、ごく平凡な高校生・伊庭隆之に訪れた激変の運命。それは、莫大な財産を相続する代わりに、敵対組織に殺された父の仇を討つこと!! しかも、同い年の義兄アーサーと「香主」の座を争う羽目に……!?血で血を洗う香港黒社会に生きる男達の、恋と劇場を鮮烈に描くピカレスクラブロマン開幕!!

1990年代の香港マフィアの世界を描いた本作では、2つのカップルが登場します。


1つ目が、組織の跡目を争う同い年の異母兄弟。

  • 攻め:伊庭隆之(李隆之、マーク李)(17)
  • 受け:アーサー李(李冠麟)(17)


2つ目が、ともに二十代後半の組織の幹部同士。

  • 攻め:ジェイソン林(林凱龍)
  • 受け:クレイグ華(華詠夏)


引用した1巻のあらすじだけだと隆之メインの物語のように見えますが、実際にはこの4人がメインキャラクターです。ともすれば年少組よりも年長組の方の描写に作家さんの力がより込められている感さえあります。


返還前後の香港というグッとくる舞台設定

本シリーズの1巻冒頭は、桜咲く春の日本から始まります。香港返還前の時期であることは、隆之たちの家を訪れた香港マフィアたちの言葉からわかります。

その後すぐに物語の舞台は香港に移り、基本的にストーリーは香港各地で進んでいきます。尖沙咀(チムサアチョイ)、佐敦(ジョーダン)、旺角(モンコック)、中環(セントラル)など、実際に自分が香港旅行中に訪れた土地が文中に出てきて思わず嬉しくなりました。

さらに、2巻では深圳の経済特区が登場したり、3巻前半ではイギリスはロンドンに飛び、そして4巻はマカオ絡みのエピソードとなっていたりと物語世界の地理的な奥行きも感じられて楽しかったです。

エネルギッシュでゴージャスで派手でパワフルな、香港という舞台とそこに住んでいるキャラクターを、本書はとても魅力的に書いています。

なお、1巻冒頭から4巻冒頭までの間に1997年12月20日の香港返還が実施されているはずですが、残念ながらこのシリーズでは香港返還というビッグイベントの当日をリアルタイムで感じられるようなエピソードは挿入されていません。これに関しては、せっかく1990年代後半の返還前後の香港が舞台なんだからそのものズバリのエピソードを書いてくれれば良かったのに、と少しもったいないような……。中国大陸から亡命者の親とともに泳いで海を渡り孤児となったジェイソンは、どんな思いで香港の中国返還当日を迎えたのか等、読んでみたかった気がします。

一方で、1999年12月20日マカオ返還式典の生中継を主要キャラ4人でリアルタイムでテレビ視聴する場面が4巻にはあり、こういう歴史的な出来事をBL作品の中で読めるのは面白かったです。


商業のBL作品って、わりと他のジャンルの創作物に比べても舞台となる土地をぼかしたり、時代背景を匂わせない書き方・描き方がされる傾向にある気がします。けれど、個人的にはしっかり地名や時代背景が描かれている方が好みです。ぼかすことが作品のクオリティを明確に上げるというならともかく、そうでないなら潔く書いてほしい、という気になるんですよ。

そんな私にとって、松岡なつきさんの何が良いって、代表作の『FLESH&BLOOD』しかり、『センター・コート』しかり、本作しかり、外国設定や歴史物設定など現代日本以外の実在の土地を舞台にした作品を明確にして書いてくれる果敢さなんですよね。膨大な調べ物が必要になるでしょうし、あえてその労力を引き受けて書いてくれる心意気が嬉しいじゃないですか。

1巻あとがきで、松岡さんは作中にも登場させた香港の「リージェントホテル」への愛を語っていますが、ご本人がきっと海外や世界史をとても好きな方なんでしょうね。

大物親分の血を引いていた主人公が突然組織の跡目を継ぐ破目になるという展開は、BLに限らず多くのヤクザやマフィアをテーマとする漫画や小説で見かける王道パターンであり、正直これだけだったら目新しさはほとんどありません。しかし、BL的な萌えも濡れ場も存分に入れてエンターテイメントに徹しつつ、同時に現地の空気感や時代背景なども下調べした上でしっかり書こうという作家さんの意識や香港を好きな気持ちが伝わってくるのが本作の良いところだと思います。


スケールの大きな派手なストーリー展開

豪奢な高級ホテル、煌びやかなナイトクラブ、執事やメイドが働くお屋敷、カジノ、クルーズ船、とゴージャスな場所も頻繁に登場する本作。

斬った張ったの香港マフィアの世界を描く作品ですから当然なのでしょうが、爆破やら銃撃戦やらもド派手です。スケールの大きな激しい抗争が何度も描かれ、敵も味方もどんどん死んでいきます。メイン4人も命がけでそれぞれの立場から動きますので、ハラハラドキドキ、スリルもたっぷり味わえます。陰謀もあり、特に裏切り者に脅迫されたクレイグが徐々に言いなりになってしまう過程がリアルで怖かった……。

ラストまで読むと「ええええええ、この人まで死んじゃうの!?」とびっくりする読者も多いことでしょう。このあたりの容赦なさは、少し古き良きJUNEの香りがしますね。私も初めて読んだときは4巻ラストにはマジか!!と驚きつつ、かなり落ち込みましたよ。

1巻冒頭の時点で既に故人になっていますが、作中、死してなお周囲の人物たちに大きな影響力を発揮しているカリスマ的な香港マフィアであり、隆之とアーサーの父親でもあったレオン李の存在感が凄かったです。香港ノワール映画なら、レオン李が主人公だったことでしょう。



隆之とアーサーが可愛い

隆之とアーサー、ジェイソンとクレイグ、という2組のカップルが登場する本作。全四巻通して読みごたえがあって読者人気も高いのは年長組だと思いますが、私はどちらかというと年少組の方が応援したくなって好きですね。ラブラブな二人が可愛いし、隆之のピュアさにアーサーが癒されているのがツボです。

隆之はそんなアーサーの腰に腕を回し、ぴったりと身を寄せた。
「俺、こうしておまえに触っているのが好き」
アーサーは呆れたように隆之を振り返る。そして、そこに一点の曇りもなく、自分を信じ切っている隆之の瞳を見つけて、心の中で苦笑した。
(飼ったことはないけれど……犬みたいなやつだな。それも大きな真っ白い犬って感じ)
隆之は明るくアーサーに笑いかけながら聞く。
「アーサーは?俺に触られるの好き?」
嫌いだ、などと言ったらどうなることだろうとアーサーは思う。
(本当にこいつは無防備で……僕に傷つけられるかもしれないなんて、これっぽっちも考えやしないんだから……)
だが、アーサーはそんな馬鹿な隆之が可愛いのだ。

年下わんこ攻めの隆之、可愛いなー。天邪鬼で屈折してて冷酷で面倒くさい性格のアーサーには、隆之くらい真っ直ぐな人間が合ってますね。

そういえば私、同作者の『センター・コート』でも、攻めが受けのピュアさゆえの無防備な強さにグッとくるシーンが凄く好きなのでした。松岡さんが書くこういう関係性のカップル、萌えるんだよなぁ。

黒社会で生きる人間としては隆之は健全すぎますし、実際全4巻のうち物語が進むとどんどん影が薄くなってしまって、頭角を現した伊良にとって代わられてる感がない訳でもないんですが、でもアーサーにはそんな圧倒的に陽属性な隆之が必要なのでしょう。


余談

香港旅行に行って

旅行に行くとその土地を舞台にした小説や漫画を読みたくなります。

香港らしさが随所に出てくる本作は旅行後に再読したら一段と楽しく読めましたが、本書が書かれた1990年代後半の香港と2018年の香港とではざっと20年ほどのタイムラグがありますから、作者が描いた当時の街の様子と私が体験した街の感じは違っているのかもしれませんね。ちょうどこの20年という月日は「香港の中国化」が進んだ時期でもあり、上海を筆頭に中国経済が成長するにつれて香港の優位性が弱まってきた時期でもありました。それでも、やっぱり現在でも魅力的な土地です、香港は。また旅行で訪れたいし、香港を舞台にしたBL作品もどんどん出版されてほしいです。

それにしても、「香港」で思い出したのがこの松岡なつきさんの『H・Kドラグネット』、一穂ミチさんの『is in you』、狩野あざみさんの『亜州黄龍伝奇』の3作品でした。3作中2作がBL小説って、つくづく私の読書傾向、ジャンルが偏ってますね(笑)

行く末が心配すぎる

4巻ラストの衝撃の展開を踏まえ、本編終了以降の開心の行く末を考えてしまうんですが、ぶっちゃけヤバくないですか!? 1巻の初めの頃から考えると有力幹部が根こそぎいなくなっているし、残ったのは年若い者たちばかりで黒社会の男たちをちゃんと纏められるのか……!? いくら伊良が見所のあるやつだと言っても、トップ3が若造ばかりで敵対組織の四刀やら中国色を強める香港政府やら相手に苦戦しないわけがない。組織の弱体化は否めないんじゃないかなぁ。

開心だけでなく、アーサーと隆之自体も本当に黒社会でやっていけるのか、とても心配ですよ。ちゃんと香主とその身内としての地位と威厳と経済的基盤を保ちつつ暮らしていけるのか。

それに、このままアーサーが香主の地位を保ったまま数十年経過できたとして、次代への引継ぎはどうするつもりなんだろう。アーサーは隆之を他の人間とシェアするなんて死んでも許さないだろうから、隆之は一生独身でアーサーへ愛を捧げ続けるでしょう。アーサーは、隆之との関係を続けたまま、割り切って女性と結婚して次代の跡取りをもうけるくらいはするかしら。いやー、でもやっぱり意に沿わない結婚はしないかもなー、独身のまま見所のある若者を養子にして跡目にするとか?

となると、二人に女の影が見えないことに不信を覚えてニッキー葵みたいに二人の関係を嗅ぎつける輩も出てきそうで、うーん前途が心配すぎる。クレイグでさえニッキー葵にしてやられたんだぞ、大丈夫か。切実に、二人の関係に理解を示してくれて信頼できる敏腕な実務家が味方に欲しいですね。

ぜひとも、アーサーと隆之には幸せになって欲しいのです。二人とも頑張れ~!!


スマホのない世界

2000年以前に書かれた作品ですから当然ですが、本作にはスマホが一切出てきません。もし、作中にスマホが出てきたり色々な便利なアプリが登場していたら多少ストーリーも変わっていたかなぁなどと考えてしまいました。


まとめ

ゴージャスでデンジャラスな香港黒社会のBLでした。面白かったです。


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