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sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

Unit Vanilla 『胡蝶の誘惑』

イラスト:蓮川連、大洋図書SHYノベルズ2008年11月

胡蝶の誘惑 アーサーズ・ガーディアン (SHYノベルス)

胡蝶の誘惑 アーサーズ・ガーディアン (SHYノベルス)

アメリカ人外科医×製薬会社勤務の日本人研究者のお話。アーサーズ・ガーディアンシリーズの第三弾だそうですが、私のように第一作と第二作は買っていない人でも問題なく読めると思います。
Unit Vanilla名義の本を買ったのはこれが初めて。噂によると、この巻の著者は木原音瀬さんなんだとか。


ラブあり、アクションあり、エロあり、切なさあり、トンチキあり、スリルあり、サスペンスあり、ファンタジーあり(あの奇天烈な薬はファンタジーだと思った)、といろいろな要素が混ぜ合わさったところが、良くも悪くもカオスという感じでした。


書き下ろしでは、受けの部屋で、大量のエロ本やエロDVDを攻めが発見するというギャグシーンがあるのですが、いやー笑いました。この場面可笑しい。だってまずエロ関係のものをベッドの下に隠していたという中学生のようなベタな受けの行動からして笑えるし、それを掃除していた攻めが見つけるというのもお約束すぎる展開でニヤニヤしてしまいます。この場面の攻めの生真面目っぷりは何度読んでも本当に可笑しくて吹き出してしまうな。真面目さと善意が、無意識に羞恥プレイを強要してる…!

でも明らかにギャグシーンだから笑っていられるけど、もし自分が大好きな恋愛コンテンツor性愛コンテンツを「数が多すぎる。厳選しろ」と恋人に言われたら泣くかもしれない…。いくらエロをテーマにするものとはいえ、というかエロをテーマにするものだからこそ琴線に触れたDVDや漫画や小説等の性愛作品って手放せないものなんじゃないだろうか。
むしろ攻めには、受けのそういったコンテンツを好み大量に所有する面をも愛してやって欲しいと思いましたよ。二人でエロDVD観て楽しめばいいじゃない、と。そしたらまさに

「あなたがこれまでどのようなDVDを好み、利用してきたかあえて想像しないようにしてきたが、少し考えを変えてみることにした。もしこのDVDの中にあるようなプレイを望んでいるとしたら、そういう風にあなたを責め立てることもできる。それを伝えておきたかった」

という攻めの台詞が。……いや、やっぱりこんな言い方されたら、頼むからほっとといてくれ!って言いたくなるわな。



 相手役が肌の黒い人という珍しい点も良かったかと。受けの「グレッグの手のひら、白くて可愛い」等の口説き文句を読んで、そういえば日本では日本人と黒人のカップルを描いた作品ってBLに限らずまだまだ少ないよなぁと思いました。私も山田詠美さんの『ベッド・タイム・アイズ』と有吉佐和子さんの『非色』くらいしか読んだことないや。白人家庭に生まれ育って黒人文化にはあまり馴染みはないのかもしれないけれど、それでもBLにカッコいい黒人の攻めキャラクターを登場させた本書のチャレンジ精神は良いと思う。
魅力的で格好良い肌の黒い攻めの登場は歓迎するとして、けれど、本書が白人の家庭にただ一人黒人として生まれついた攻めのコンプレックスを描いている以上、黒人差別についての記述で、読者としてどう受け止めるべきなのか少し迷った箇所もありました。例えば攻めが「私は幼い頃から、自分は差別されていると思ってきたが、本当は自分が一番、肌の色の違う自分を差別していたんだと高嶺に気づかされた」と心情を吐露する場面(注:高嶺とは攻めの親友)。受けは“それはしょうがないことだ。卑屈になることに落ち込むな。気にするな。あなたは素敵だ”というメッセージを送り、これは確かに攻めを救済します。でも、差別される本人が差別を内面化していることと、他者が差別をすることって同列に比較していいものでもないような……。娯楽作品とはいえ差別や偏見への記述は難しい。


さて、この作品の攻めは、一見生真面目な常識人キャラと思いきや、結構ぶっ飛んでるキャラクターでした。少なくとも無謀ではある。登場の仕方とその要求は人並みに警戒心を持っている成人には不審者扱いされてもしょうがないレベルだし、初対面で「マゾヒススティックな嗜好があるのか?」とどう考えても相手を怒らせるような失礼な物言いをしているし。真面目なんだか不真面目なんだかよくわからない。有能かつ正義感に溢れた医師であり、語学も堪能で、アクションシーンもなんなくこなす超人ぶりも、なんか彼のカオス度に拍車をかけているような。グレッグへの印象と本書全体への印象って被るなと思います。ちょっと意地悪モードが入っている攻めは萌えましたよ。


受けは妄想狂という属性を持っていますが、私は、攻めよりは地に足のついたキャラクターに見えました。ただ、海の上のボートで現実と幻覚を区別できなくなって迫る場面は、お笑いかつエロシーンとして書かれているのがわかっていても、なんかこう性的ファンタジーをダダ漏れにしている他人の妄想って、やっぱり破壊力があるものだなぁと読んでていたたまれなくなってしましました…w


攻めと受けだけではなく、脇役も本作はキャラが立っています。極悪な当て馬攻めや、無神経な受けの後輩内田がきっちり制裁を受けているのには、読者の溜飲を下げさせるための作家さんのサービス精神を感じますね。でも私、内田君は結構好きだったのであの仕打ちには正直同情しちゃったな。


ところでこの本って読者の愛を試しているのか。いくらなんでも店頭で購入するためのハードルが高すぎじゃないでしょうか。全裸の受け(しかも左手がお尻にかかっている)と胸を肌蹴させた攻めが描かれているため、表紙の肌色率が半端無いですよ。実際私は本書を買いに書店へ行ったものの表紙に恐れをなして帰ったことがありました。後日気を取り直して購入しましたけれど、会計の際はとんでもなく恥ずかしかった。出版社さん、お願いですからもっと抑えた表紙にして欲しいです…。


とにかく勢いがある作品でした。『誘惑』と書いて「エロス」と読ませるセンスだとか、財団の非常識さだとか、受けの診察情報が外部機関に漏れていることだとか、突っ込みどころは数多くありますが、作家さん側もわかっててあえてやっている感が伝わってくるせいか、突っ込んだり、笑いどころの描写でニヤニヤしたりしつつどんどん読み進めていくのが本書の楽しみ方なのではないかと思います。それを可能にするぐいぐい読者を引っ張るようなインパクトの強さはなかなかのものです。



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