sorachinoのブログ

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高遠砂夜 『姫君と婚約者』シリーズ

姫君と婚約者 (コバルト文庫)

姫君と婚約者 (コバルト文庫)

今日は、私が小中学生の時に夢中で読んでいた昔懐かしの作品について語ってみたいと思います。集英社コバルト文庫高遠砂夜さんの少女小説、ずばり『姫君と婚約者』シリーズについて。

舞台は異世界のディアゴール王国。奇姫と呼ばれる風変わりで明朗な14歳の姫君アリィシアと、何百年も生きている無愛想で偏屈な魔法使いガルディアとのラブストーリーです。毎回事件やトラブルが起こり、それを乗り越えるたびに二人の絆が強まり、アリィシア自身も成長をしていきます。

このあらすじをご覧になれば想像がつくと思いますが、本作は若い女の子の好きなものを詰め込んで出来た異世界ファンタジー小説でして、まさしく少女小説と呼ぶに相応しい作品であると言えるでしょう。そもそも『姫君と婚約者』というタイトルからして乙女チックですよね。お姫さまになること、そしてお嫁さんになることって、いかにも‘女の子の夢’ですし。これが好きだったあたり、自分って結構ミーハーだったのかもしれません。

実はこのシリーズの1巻は、小学生の頃の私が生まれて初めて自分のお小遣いで買った小説なのです。それだけに思い入れもひとしおでして。大人になった今、定期的に本棚の整理をしていて古いものは捨てていっているのですが、どうしてもこのシリーズは捨てられないでいます。このエントリーには思う存分作品への愛を込めて書きました。なので大変長いですw


生き生きとしたキャラクター

このシリーズはなんといってもキャラクターがとても魅力的!

アリィシア

まず、主人公アリィシアについて。彼女はいろいろ騒動を巻き起こす迷惑な人でもあるんですが、天衣無縫でなんか憎めないんですよね。底抜けに明るくて、周囲の人たちに可愛がられながらのびのびと元気よく育ったお姫様、というイメージです。

彼女がガルディアを好きすぎるのも可愛かった。どこの巻だったか忘れましたが、“アリィシアは決して美女というわけではないけれども、彼女がガルディアの傍で微笑んでいるとき、周囲の人びとがハッと目を瞠るほどアリィシアは可愛らしく見えることがあった。それはまるで魔法使いがその婚約者に魔法をかけたようだった”という内容の文章があり、印象に残っています。アリィシアの愛らしさが目に浮かぶようだわ。

アリィシアは、魔力を持つガルディアを普段は気味悪がっているくせに、都合のいいときだけその巨大な力をあてにしようとする周囲の人々に対して真剣に怒ったりもします。ガルディアの尊厳も思いやれる子なんですよね。

ガルディア

アリィシアが明るくて元気いっぱいでパワフルなのに対して、無口で無表情で無愛想で偏屈で根暗なガルディアの組み合わせも面白かったです。二人の掛け合いは読んでて笑ってしまうこともありました。お互いにカルチャーギャップを感じつつも、心を通い合わせていくのを毎回楽しんで読んでいました。ガルディア、根暗で人付き合いが大嫌いで偏屈な人なのに、どこかユーモアがありますよね。ところどころにある、あまり感情を表に出さないガルディアの内面が瞳に表れているような表現も好きでした。

レイ・レナ姫

アリィシアの姉で、レイ・レナ姫という世継ぎの姫君が登場するのですが、私はこの頼りになる姉姫も大好きでした。いつもアリィシアの尻拭いをする保護者的な立ち回りをしています。鬼姫という異名をとるほどに剣の腕も一流の上に、誇り高く毅然とした美人です。まさにお姉様!という感じのキャラクター。

この人は彼女自身の婚約者との関係も面白いんですよ。レイ・レナ姫には、彼女以上に可憐な美少女顔の超絶美少年な双子の婚約者がいます。一夫一妻制の国ですから、結婚相手は一人だけだというのに、諸々の事情で婚約者が二人もいる珍事態なのです。レイ・レナ姫は双子のどちらとも親しく、双子のどちらもレイ・レナ姫を愛している。しかも双子たち自身も恋敵同士でありながら仲の良い兄弟である。姫は双子のうちどちらを選ぶべきか?どちらを切り捨てなければならないのか?最初から婚約者は一人であればこれほど悩まなかったのに……、という葛藤を抱えつつも、レイ・レナ姫は王太子としていずれ必ず一人を選び結婚すると決意をします。

このどちらを選んでも切ないという展開は、レイ・レナ姫の決断のときが来る数年後の彼らを想像しただけでキュンときますよね……!ただし、結局どちらを選ぶのかは作中では明らかにされていません。新刊の発行はここ数年無いので、これからも明らかにされることはないでしょう。残念ですが。

熱心な読者だった小学生の頃、私は3人で幸せになればいいのに、と思っていました。レイ・レナ姫、女王になったら権力使って、一妻多夫制にしてみるってのはどうでしょうね?少女小説で単なる逆ハーに留まらずポリガミー的な幸せを追求する例は珍しいでしょうから、やってみたら面白いんじゃないかしら。いや、まあでも、レイ・レナ姫はそんなことするキャラじゃないか。双子なら一人の女性を共有することも出来るだろうというのも、それはそれで無茶な理屈だろうしね。

実はこの鬼姫、ガルディアとの関係性も私にはツボでした。別に恋愛関係になってほしかったわけではなく、あくまでもアリィシアを挟んで微妙に仲の悪い2人という立ち位置で充分なんですが、時に誰よりもわかりあえているように見えるのがなんだか印象的で。

エリーゼ王妃

そして、アリィシアとレイ・レナ姫の母親であり、ガルディアの元恋人であるエリーゼ王妃。彼女も興味深いキャラクターです。エッセイ『シュミじゃないんだ!』かどこかで三浦しをんさんも突っ込んでましたが、このエリーゼ王妃ははよく考えたらかなりエグいことをしているキャラクターですよね。

でも私結構この人好きなんですよー。ひたすら優美で穏やかで慈悲と気品溢れる貴婦人である彼女は、ある面では異端と蔑まれる恋人を捨て国王という社会的に権威ある存在と結婚する上流階級の娘であり、ある面では裏切った昔の男の力を利用するため自分の娘に誘惑させようとする凄まじい母親であり、ある面では自らの私的な体験を餌にしてでも王国の安寧のために尽力する献身的な王妃である……、なかなか味わい深い脇役です。

この人、わりとそのときどきの自分の感情に正直に行動していると思うな。彼女の深層心理をもっと探ってみたいわ。


巻によって様々なテイストで飽きない

ところで、このエントリではリンクは一巻だけ張っていますが、既刊は番外編も含めて合計13巻(姫君と婚約者1〜12巻+番外編の星のカーニバル)あります。完結はしていないようです。

どこかの巻の後書きに、1巻の時点で出来上がっているカップルを主人公としているため、二巻以降で毎回波風を立たせてストーリーを作るのに苦労している、という話が載っていました。まぁ確かにシリーズ後半のマンネリ感は否定できないかもしれません。

でも、1巻や5巻はわりとシリアスな雰囲気が漂っていたり、一方で6巻や10巻はドタバタ喜劇だったりと、巻によってテイストが違っている分、いろいろな雰囲気を楽しめます。作家さんの苦労の賜物なのでしょう。

ストーリーとしては二人が出会って恋愛を成就させるまでの流れを描いた1巻がやっぱり一番好きでした。落ち着いた雰囲気の中で壮大なラブストーリーが繰り広げられています。でも、お姫様なのに崖をよじ登って体を張って魔法使いの館に乗り込んでいくところだとか、主人公が無表情で頑なな魔法使いにうっかり心惹かれてしまうところだとか、どこかユーモアのある描写もあって読んでいると結構笑えるんですよ。

恋愛物としてみると、主人公が政略結婚をするために誘惑しなければならない相手にいつしか本気で惚れてしまうのというのは、ちょっと都合が良すぎですし、ありがちなパターンであるのは確かだと思います。けれど、それはまぁロマンス小説の王道なのでこの際問題ないでしょう。

私は、自分の親族がかつて相手の心に多大な傷を負わせていて、それゆえに相手は恋愛を拒んでおり、しかも自分と相手の結婚はその親族の意向であるがゆえに、相手はなおさら自分を拒む、という恋の障害は面白かったなぁと思います。泥沼の中でアリィシアはよく頑張ったわ!


アリィシアは何度でもガルディアに出会う

そして、このシリーズの面白いところは、ヒーロー役であるガルディアの分身のような存在が次々と登場し、アリィシアが彼らに出会っていくところにもあると思います。

例えば、一巻ではレディオ。彼は、ガルディアが魔法で作り出した蝋人形です。思考し、学習することが出来ます。その容姿はガルディアに酷似しており、ガルディアにとっては影武者であり、遠隔カメラでもあり、そして精神の一部を受け継いだ存在でもあります。

前述しましたが、私はこのレディオの登場する1巻が一番好きです。自分そっくりの容姿を持つ思考する蝋人形を魔法で作り出した上で召し使うガルディアの不気味さも、思考し成長する蝋人形レディオとアリィシアとの心の交流も良かったなぁ。

そして、二巻ではライという少年が登場します。これは若き日のガルディアなんですよね。ライと名乗っていた幼いガルディアは不器用でナイーヴで、でもとても愛情深くて可愛らしい少年です。「初めて女の子の頬に触ったんだ……」などと物馴れない彼とアリィシアの交流は可愛らしかったです。

レディオとライはガルディアという存在の一部ですから(ライはともかく、レディオはそうとも言い切れない部分もあるのですが)、アリィシアは彼らにも惹かれます。

そして、八巻で登場する悪役、フォーレスト。ガルディアに似た容姿をしており、ガルディアの対極の存在とのことですが、どこか360度回って共通点も多いという不思議なキャラ。
さらに十巻で出てくるリーフェ。容姿も性格もガルディアそっくりの幼児。ガルディアの隠し子か!?と周囲に騒動を巻き起こします。

フォーレストとリーフェにアリィシアが惚れる展開はありませんが、レディオ、ライローグ、フォーレスト、リーフェとガルディアに似た部分を持つキャラが次々と登場するって何だか面白いです。

この構成を思うと、私はなぜか源氏物語を思い浮かべるんですよね。ほら、源氏物語も色々なタイプの女性が登場しますが、みんなどこか実母の桐壺女御を思わせる部分があるでしょう。愛する人の面影を求めて、どこか似た部分を持つ人に出会っていく光源氏
なんとなく、その辺りが『姫君と婚約者』シリーズに重なって見えるんですよ。まぁ、こんなアホなことを思いついたのは私だけでしょうが……。


究極の愛の証明が豪快でパワフル

さて、恋愛をテーマにしている今作。主人公カップルの愛を高らかに描いているんですが、そのスケールが結構凄い。

例えば1巻の場合、ヒーローがヒロインへの愛を証明する行為として、彼の寿命を三分の一にまで減らして彼女の国を守る、というクライマックスが演出されています。これ、初めて読んだときはびっくりしたなぁ。ええええええええええええ、すご…!いやーホント凄いなー!恋愛小説では自分の寿命を削ってまで恋愛を成就させるのか…!と。まぁ彼はもともと普通の人より格段に長い寿命を持っていたので、アリィシアとともに人生を歩むなら短くなっても構わないのだ、みたいな話になっていましたが。

さらに二巻では、ガルディアはアリィシアのために魔力の半分を失くしてとある魔法を使います。寿命の三分の一の次は、才能の半分ですよ。ガルディアがアリィシアのために支払った代償が大きくてびっくりですが、少女小説のヒーローはヒロインのためにこれだけやってしまえるのです。なんて豪快な。

ちなみに、あともう一つ、二巻より。アリィシアの母親とガルディアが恋をする遥か前に、若いガルディアはタイムスリップしてきたアリィシアと恋に落ちていたということが判明します。実は二人は既に出会っており、ガルディアが王妃に恋したのもアリィシアの面影を求めてのことだったのではないか、ということになっているのです。つまり、ガルディアの恋の根元には常にアリィシアがいた、と。

ガルディアの愛、偉大です。
 

余談

  • ところで、ライと名乗っていた幼少期のガルディアを老魔法使いに託した吟遊詩人って、やっぱり『レィティアの涙』シリーズのユーザなのでしょうか?? 翼翔人という『姫君と婚約者』『レィティア』同一の人種が出てきますし。設定が同じということは共通の世界なのだと思われます。『レィティアの涙』シリーズは、小中学生の頃本当に大好きで何度も読み返していました。後日レィティアシリーズに関しても感想書きたいです。

まとめ

長々と語ってきた通り、『姫君と婚約者』シリーズはもう本当に大好きでした‼ それだけにきちんとした完結巻がなかったのは残念ですが、読者だった小中学生の頃は大変楽しませてもらいました。



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