sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説、ミステリ小説、アニメ、ドラマ等のジャンルごった煮読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。ネタバレ多数、ご注意ください。コメント大歓迎です。不定期更新。

高遠琉加 『愛と混乱のレストラン 1』

イラスト:麻生海、二見書房シャレード文庫

愛と混乱のレストラン (二見シャレード文庫)

愛と混乱のレストラン (二見シャレード文庫)

  • 受け:鷺沼理人
  • 攻め:久我修司

高級フレンチレストランを舞台に、シェフ×支配人(ディレクトール)のお話でした。攻めはワイルドで豪快な男性、受けは冷静で頑固で仕事のためなら土下座もする仕事人間。でも実は結構ナイーヴで繊細だったりもする。年齢はどちらも二十代で、一歳違いの年下攻めでした。
表題作である『愛と混乱のレストラン』前編と後編、そして受けと攻めの同僚であるパティシエを主人公とした番外編の『愛のように甘い』が収録されています。

レストランという魅力的な舞台

まず高級フレンチレストランという舞台を多角的に描いていたというのが魅力的だったと思います。働く場としてのレストラン。客に料理を提供する場としてのレストラン。思い出の場所としてのレストラン。箱物としてのレストラン。登場人物達が異なったレストラン観を提示していたのも面白い。この本読んでいるとレストランに行きたくなる!

また、受けと攻めの恋愛譚であるだけでなく、一軒のレストランを再興させるという一つの目標に向かってチームで一丸となって頑張るお話でもあって、その辺りが楽しかったです。それぞれが持つ技能と知識を活かし力を合わせて何かを成し遂げる、という描写は読んでいるとこちらもワクワクしてくるのですよね。
そんな描写を支えていたのは、パティシエやギャルソンなど脇役の同僚もそれぞれキャラが立っていて存在感があったことや、ギャルソン視点でお店への気持ちを語るシーンがいくつか挿入されていたことなのだと思います。レストラン物として読むには結構あっさり店は軌道に乗っていくのですが、それでも少しずつ頑なな受けと同僚達の間でコミュニケーションが成されていく様子を読むのは、やはり嬉しい。

受けの生い立ちの意外性

そして鷺沼の生い立ちの意外さというのも良かったかと。主人公の相手役ではなく主人公自身の経歴がかなり読み進めた時点で暴露されるというのは、ちょっと叙述トリック的で、BLではちょっと珍しい構成なのではないかな。そこで読者は攻めと一緒に、受けにはそんな過去があったのか!と驚けますし、同時にそれまでに書かれてきた数々の意味深な描写の訳がわかってなるほどとすっきりします。私もてっきり良いお家に育った人という印象を持っていたので、やはり驚きましたよ。

親がいない、ネグレクトされて育った、施設で育った、などの経歴を持つキャラクターの登場やそういった経歴を「不幸なもの」として描きその「不幸」を消費するように読む(読ませる)というのは、あまりにも物語のお約束すぎる気がして私はそれほど好きではないのですが、この作品ではあまりそういう感じはしなかったので読みやすかったです。たぶん最後の最後にその事実が明かされたからでしょう。

それにしても、こういう風に二人は急接近するのか。ここまで相手の無防備でナイーブな内面に触れてしまうと確かにその人の事が気になってなんと関わりたくなってしまうだろうなー。惚れるときって相手の強さに心惹かれる場合もあれば弱さに惹かれる場合もあると思うけど、本作の攻めが受けへの愛情を自覚するのは明らかに後者ですね。読者としても、ガードの堅かった受けのどんどん露呈していく脆さにはなんだか愛おしさを感じてしまうよー。現在、受けから少し怯えられている攻めですが、今後どうやって受けを篭絡していくのかとても楽しみです。

脇キャラの充実

部長のキャラも良かったです。年上らしく優しくて紳士的で。この人の包容力の高さはポイント高し。
あと、麻生海さんが描く挿絵の攻めに掴みかかるおじさんの絵がなんかツボでした。頭の禿げ具合といい腹の出方といい「こういう人いるいる〜!」と思わず叫びたくなった。

余談

  • そうかー樫崎にはもう湯原という想い人がいるのかー。なんとなく私はパティシエの樫崎×スー・シェフの北白川というカップルが出来上がるんだろうなと予想していましたよ。寡黙で強面な大男なのに誠実なお菓子職人というのは好みなので、どちらにしろ樫崎のお話が読めるのは嬉しいけれど。
  • レストランもの繋がりということで、本作を読んでいて、10年くらい前にやっていた『王様のレス○ラン』を思い出しました。あのドラマ好きだったなぁ。漫画ではオノナツメさんの『リストランテ・パラディーゾ』、よしながふみさんの『西洋骨董洋菓子店』(←これはレストランではなく洋菓子店ですけれども)なども思い出した。BLだとたけうちりうとさんの『冷たくて優しい果実』も料理屋さん物だったっけ(こちらは日本料理店)。料理屋物って魅力的な作品だと、美味しそうな料理名がずらずらと登場する分、読む楽しさが倍増する気がする。この『愛と混乱のレストラン』も、料理名や料理描写がたくさん出てきて幸せな気分になれました。
  • 攻めの家庭では風邪をひいた時はミルクセーキを飲むらしい。そうそう風邪の時ってそれぞれの家庭で定番の食べ物や飲み物ってありますよね。我が家はミネストローネだったなぁ。懐かしい。そういえば長野まゆみさんの『夏緑陰』では主人公は風邪をひいた時にレモン味のヨーグルトを食べるのが習慣という話が載っていたなぁ。こういうちょっとしたエピソードってなんか生活感がしますね。
  • 口論の際、受けに対して

    「支配人が女だったらよかったんだけどな。女なら性欲で抱けるからな。あんた相手じゃ胸くそ悪くてセクハラする気にもなれねえや」

    と攻めが侮辱するシーンがあるんだけれど、あれ、でもこの攻めって冒頭で「俺はバイセクシュアルだから」とカミングアウトしてるよね。別に受けが女である必要はないような…。性欲で女は抱けても男は性欲では抱けない?男相手ならプラトニックを通す派?もしかして攻めは男相手なら抱かれたい願望があるとか!?いやいやいやそんなまさかね。おそらくヘテロ寄りのバイだと主張したいんだろうけども。ところで「あんた相手じゃ胸くそ悪くて〜」とか「あんた俺の好みじゃねえから」等の受けに言い放つ台詞を見てると、じゃあどんな男が好みなんだろう?と気になる。

【まとめ】

今のところ本書は高遠作品の中で一、二を争うくらい好きな作品です。それくらい面白かった!



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