sorachinoのブログ

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桑原水菜 『赤の神紋』

赤の神紋 (コバルト文庫)

赤の神紋 (コバルト文庫)

イラスト:藤井咲耶コバルト文庫 1999年8月10日初版発行

  • 連城響生(28)
  • 葛川蛍(18)


 炎の蜃気楼シリーズで有名な桑原水菜さんの現代演劇もの小説の第1巻。私は番外編も含め全14巻読破していますが、全てはこの1巻から始まりました。

小説家兼劇作家と舞台役者の物語です。双方男性で一方がもう一方へ並々ならぬ執着を抱いていたり性的行為さえもあったりしますが、一応男性同士の恋愛を主眼に置いているわけではなく演劇が中核に据えられている作品です。

暑苦しさと生々しさ

「桑原節」と言うんでしょうか、とにかく筆致が暑苦しい!でもその暑苦しさがクセになる!

勝者と敗者、天才への劣等感と憧憬、凡人であるがゆえの苦悩、自ら模倣者になってしまった恥辱など、作家の連城をはじめとした登場人物達の生々しい感情が溢れています。

桑原さんの書かれるキャラクターの内面描写は、ときに読んでるこっちが気恥ずかしくなるほどなんだけれど、この感情の生々しさはやはり読んでいて心を揺さぶられるものがあります。

特に模倣者である羞恥心を吐露する連城の姿は、痛々しくて惨めで無様。でも羞恥ってまさしくこういうものだよなぁとも思います。後述するように連城響生というキャラクターはかなり暴走する人なのですが、そういう暴走する部分も彼の魅力の一つなのか物語に引き込む勢いがあるのは確かで、ぐいぐい引っ張られて一気に最後まで読破したのでした。私は連城の惹かれるものへの正直さや一途さ、自らの恥部さえ抉り出す真摯なところなどは好きですね。

演劇という題材

もちろん小説ですから現実の演劇界と乖離している部分はかなりあるでしょうし、小説としてのデフォルメはされていることでしょうが、それを踏まえた上でもこの『赤の神紋』シリーズは舞台演劇という世界をとても魅力的に描いると思います。

テレビや映画に出演する芸能人達とは違い、舞台を主に活躍の場とする舞台役者に焦点をあててその練習風景や劇団内の人間関係などもしっかり描いている場面を読んで、自分が経験していない世界を疑似体験できたり垣間見れたりすることはまさに本を読む楽しさの一つだなあと改めて思いました。ちなみに舞台監督と演出家の違いを知ったのはこの本のおかげです。下北沢が芝居の街だというのも寡聞にして初めて知りました。

 ケイが酔って一人芝居をしていたシーンは、いかにも役者の酔い方という感じで面白いなぁ。酒が入ってご機嫌なケイが公園で『かもめ』や連城の作品の一人芝居をする様子は、本当に気持ち良さそうで一巻で一番和んだシーンです。青春だなぁ。

 作中で興味深かったのは、俳優を「巫(みこ)」とみなしている箇所。そういえば、確かに古代日本の原始的な芸能って神事や祭り、シャーマニズムの中で生じてきたんですよね。古事記アマノウズメのように、芸能史の知識としては知っていても、普段テレビに映っている現代の俳優達を神懸かって演舞する巫の末裔として見たことは無かったので、なんだか新鮮な観点でした。

 それとも普段からテレビ俳優ではなく舞台役者を見ているとそういう感覚ってもっと鮮明なものなのかな。私は舞台演劇を見た機会はほとんど無いのですが、たくさん見ている人は舞台という生の「場」にエネルギーや聖なるもの、魔力を実感しているんだろうか。

 あとがきに「好きなものだけで書いたらこうなった、的な作品」とあるように、きっと桑原さんは舞台演劇界に生きる人がお好きなのでしょうね。実際そんな舞台演劇人への愛情が伝わってくる作品だと思います。

その他

  • ただ正直なところ、連城の榛原(やケイ)に対する言動がちょっと極端すぎてついていけない部分も無いわけではなく……。勿論それだけ連城にとって榛原の存在が大き過ぎるのでしょうが、刃物を所持して振り乱すわ、殺してやるだの口走るわ、薬飲まして監禁するわ、物凄い暴走っぷりです。危険な奴だ。
  • 「巫(みこ)」の他に、連城によってケイは「天使」とも「自分の精神の<肉体>」とも表現されていましたが、それにしても「精神の<肉体>」というフレーズは強烈で官能的。と同時に、作家としての支配欲や傲慢さも感じる言葉でもあるような…。

まとめ

気恥ずかしいほど若く青臭く、そして暑苦しいくらい熱いお話でした。それだけに一旦嵌ってしまうとこの熱いノリには中毒性があって凄く楽しい。続きを読まずにはいられなくなります。面白かったです!



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