青井秋 『百年結晶目録』
あらすじ
旅の学者ベントは、廃鉱で一人の少年と出会う。虹のように煌めく瞳のその少年・イーリスは、鉱石を食べる、砂漠の金剛石と呼ばれた種族の生き残りだった。旅路を共にし、少しずつ心を通わせていく二人だったが……。
旅の学者ベントが鉱石を食べる体質の若者イーリスと出会い、共に旅をすることになる、というストーリー。ロードムービー風に、青い布が特産物の山間の街や、赤い砂浜が広がる海沿いの港町などの各地を行く二人の様子が静かに描かれています。
彼らが列車で移動している場面を見ていて羨ましくなりました。良いなぁ。私ものんびり車窓から綺麗な風景を眺めて旅をしたい。前からシベリア鉄道に乗ってみたかったんですが、この場面を見ていたらますますその欲求が高まってきましたよ。
装丁が丁寧
この本の重要なモチーフは「鉱物」なのですが、それに合わせてかなり凝った装丁になっていました。裏表紙、扉絵、頁数の書かれた頁下部、著者近影欄、カバー下、など至る所に鉱物のイラストが散りばめられています。金色と淡いベージュを基調に鉱物や植物のリースを丁寧に描いた表紙も美しいですよね。作家さんの強いこだわりを感じます。
その他
ベントが学者としての知識欲と探求心からイーリス本人には内緒で稀少な種族の生き残りであるイーリスの生態を研究していた件に関してや、クライマックスの誘拐事件は、なんだかあっさり解決している感じがしましたのでもっと緊迫感とか盛り上がりがあっても良かった気がしますが、この淡々としたテンションこそが青井秋さんの持ち味でもあるのも確かなんですよね。
BL色も薄めです。描き下ろし部分でイーリスがベントの寝床にもぐりこむ場面はありましたが、大仰に恋だの愛だのといった台詞は出てきません。イーリスはベントを失うかもしれないと感じたとき強い恐怖を感じており、ベントもまた今後もずっとイーリスの傍にあることに同意していて、二人の絆が育まれていたことは誘拐事件を通して描かれていますが、恋愛関係という感じでもないような……?今後、ずっと2人が共に歩んでいく中でそういう関係になることもあるのかもしれません。もし恋人同士になったとしたら、寿命の違いも相まって凄く切なくて優しいラブストーリーになるのではないでしょうか。
お伽噺めいた仕上がりの作品でした。恋愛描写や性愛描写を期待して読むと肩透かしですが、この繊細で優しい雰囲気がお好きな方にはたまらない世界観なのではないかと思います。