sorachinoのブログ

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ジョシュ・ラニョン 『フェア・ゲーム』

フェア・ゲーム (モノクローム・ロマンス文庫)

フェア・ゲーム (モノクローム・ロマンス文庫)

翻訳:冬斗亜紀


アメリカ人作家による、現代アメリカが舞台の小説です。
男子大学生の失踪事件の謎を追うミステリー要素、主人公とその元恋人とが復縁するロマンス要素、その二つが上手く絡み合ったお話でした。面白かったです。


あらすじ

元FBI特別捜査官で現在は大学で歴史を教えるエリオットの元に、失踪した学生の捜索依頼が持ち込まれた。捜査協力にあたる担当捜査官を前にしたエリオットは動揺を隠せなかった。 そこには一番会いたくない、けれど決して忘れられない男、タッカーの姿があった。 タッカーはかつてのエリオットの同僚で恋人だった。

  • 主人公:エリオット・ミルズ(37)
  • 相手:タッカー・ランス

ミステリー部分について

若い男性が被害者となる連続殺人事件の犯人の正体が発覚するのはクライマックスなのですが、その犯行理由というのが実に猟奇的で、また妙にエロチックな印象があり、さすがラニョンさん……!と思いました。

犯人があんなにもあからさまに犯行を明示しているのに、誰もがなかなか気づかない状況というのも面白い状況ですよね。誰が犯人かは終盤までわからず、その中で主人公エリオットにも危険が迫ることとなり、読んでいてハラハラさせられました。

ただ、一つだけ難点をあげるとすれば、若く健康な被害者多数を相手にあれだけのことを成し遂げる体力はあの犯人にあったんだろうか?とちょっと疑問も持ちましたが。


恋愛部分に萌える

硬派な筆致という印象を受けましたし、恋愛パートの分量もそれほど多いというわけではありませんが、私は主人公と元恋人の関係にとても萌えました…!ちなみに双方男性です。

主人公のエリオットは頑固で、相手のタッカーも肝心な時に言葉足らず。なので、一度極限状態ですれ違いが起きると別れに繋がってしまいましたが、お互いまだ相手を忘れられていないため、一度しっかり話し合うことができればやり直せる関係なんですよね、この二人は。

タッカーはワイルドでタフな男性ですが、何度も素直に胸中を晒すシーンがあります。エリオット視点で物語は進むものの、タッカーがエリオットに未練があって情熱的な想いを持ち続けていることはよく伝わってくるんですよ。

タッカー、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。エリオットの危機にはちゃんといつも助けに入るし、良い奴です。エリオット自身も考えていたことですが、心の内を晒せるタッカーの素直さと勇敢さがなければ、この二人はずっとすれ違ったままで終わっていたことでしょう。二人が再会できてよかったです。後半以降、やけぼっくいに火がついて親しげに軽口や皮肉を言い合ったりするシーンは楽しかったです。


風光明媚なシアトルという舞台

このお話の舞台は、シアトル都市圏(グレイターシアトル)です。あまりアメリカの地理には詳しくないのでシアトルと聞くとマリナーズくらいしかイメージが浮かばなかったのですが、本書にはちゃんと舞台となる土地の地図がついています。そういう丁寧さ、読者に親切で良いですね! おかげさまで、米国北部のカナダと接する所にシアトルの属するワシントン州が位置しているということを本書で初めて知りました。
 
この小説では頻繁に地名が出てきます。グーグルマップ等でシアトル周辺を検索して作品世界の雰囲気を思い浮かべながら読み進めてみましたが、とても楽しかったです。

シアトルのバラード地区に主人公の父親の家があり、また主人公の恋人タッカーもシアトル市内に在住。シアトル中心部から北に車で1時間程度の距離のタコマ市には、主人公の勤務先のピューゼットサウンド大学(PSU)があります。

タコマの南西に位置するステイラクームのフェリー乗り場から船旅を経て、ピュージェット湾に浮かぶグース島に渡ると主人公が一人で暮らす自宅があります。

エリオットは陽光が差し込むキッチンでコーヒーを淹れた。窓からのぞむ木々の向こうは海で、彼はコーヒーを飲みながら、深い入り江の海面から身を躍らせるシャチの姿を眺めた。

これ、土曜日の朝に自宅のキッチンでくつろぐ主人公の描写なんですが、家の窓から海中のシャチが見えるって凄くないですか? いやー、優雅で羨ましい環境です。いいなー!ちなみに、散歩に出れば野ウサギや鹿やキツツキ、オオアオサギと遭遇する様子も描かれていて、なんとも自然豊かな島の描写に驚きました。オフは海を眺めながらのんびり島暮らし、オンになると車ごとフェリーに乗って本土へ出勤、タコマで働いたり、都市部のシアトルに行って人と会ったり――――良いですねぇ、そういう暮らし方。

ちなみに、本書は本文でも付属の地図でもエリオットの住む島はグース島となっているんですが、グーグルマップだとその位置にある島はアンダーソン島と表示してあるんですよ。うーん、なんで違っているんだろうか?明らかにモデルはアンダーソン島ですが、あえて作中では架空の名前グース島をつけたんでしょうか?

 ところで、グース島には及ばないとしても、シアトル自体、都市部でありながら水と緑が溢れるかなり風光明媚な土地だということが今回わかったので、とても旅行してみたくなりました。
 

余談

  • 海外が舞台の翻訳小説では、日本に住む者にとってあまり身近でない単語が使われていることが多いですよね。実際、本筋とは関係ない海外生活の何気ない描写の数々を本書でも楽しめたので、海外事情を知ることができるのは翻訳小説を読む醍醐味だよなーと改めてしみじみ思いました。
  • 例えば、食べ物。本作には料理シーンがよく出てくるのですが、見慣れない食材もたくさん使われていました。「グリークシュリンプとリーキの炒め物」のリーキ、私はこれを知らなかったので思わずググってしまいました。リーキとはネギのような野菜で、いわゆるポロ葱や西洋ニラネギと呼ばれるものなんだとか。「マスカルポーネチーズだよ。それでリガトーニにかけるマッシュルームクリームを作る」のリガトーニはパスタの一種だろうという予想はついたもののどんな形状だかわからず、これもグーグル先生に聞いてみました。マカロニのような形で筋が入ったショートパスタを指すようです。イカ料理にかけた「マリナラソース」は、トマトソースがベースでオレガノが加えられたもののことだそうな。「ズッパというトスカーナのスープ」は、ソーセージあるいはベーコン、玉ねぎ、にんにく、ジャガイモ、ケール等を入れて煮込んだ具沢山スープ。「ポテトと豆のエンチラーダ」のエンチラーダは、トウモロコシのトルティーヤを巻いてフィリング(具材)を詰め、唐辛子のソースをかけた料理とのこと。どれも美味しそうです。特にズッパとエンチラーダは食べてみたいです。
  • 食べ物と言えば、二人で夜を過ごした翌朝タッカーがブルーベリーのパンケーキを焼いて二人で食べているのを読んで、タッカーみたいなワイルドでゴツイ男性が恋人にパンケーキ焼いちゃう図を想像するとなんか可愛いくて萌えました。まぁ、でも日本人の私からするとパンケーキは女性が好むイメージが強いけれど、アメリカ人にとってはパンケーキを朝食に食べるのは男女問わずごく当然のことなのかもしれませんが。
  • 満月を見たアメリカ人の主人公がその模様から「月に住むという老人」を思い浮かべたシーンにも日本人との違いが出ていて面白かったです。月に住むものといえば日本では(というか東アジアでは)ウサギが一般的ですが、老人を読み取る文化もあるんですね。
  • 「ブラックヒストリー期間」というのが出てきまして、黒人にかかわる人権啓蒙期間だと思うんですが、こういう言葉がさらっと会話の中に出てくるのがアメリカっぽいです。
  • エリオット、モテモテですね~。若い女子学生にも、若い男子学生にも迫られてました。特に、バーで自分の大学の教授(しかも20歳近く年上)に「一杯オゴらせてもらえませんか、エリオット?」と口説きに入る粋がった男子学生ジムには思わず笑いました。それ学生が社会人に言う台詞じゃないでしょうよw このジムはなんだか憎めないキャラクターでして、私は彼の登場シーンがくるたびにニヤついてしまいました。
  • FBI辞職後に歴史学の大学教授になったエリオットですが、いくらFBIに入る前に博士号取っていたからって、こんなにも鮮やかに転身できるって凄すぎなのでは。FBIでの捜査経験を評価されて犯罪学の教授に採用というのなら納得できるんですけどね。
  • ラストでタッカーがエリオットの家に引っ越してきて同棲することを二人が合意していましたが、殺人事件の起こった事故物件に住むのって怖くないのでしょうかね?二人とも捜査官の経験があるからそういうのは気にしないんでしょうか。死体が見つかった寝室のベッドはさすがに新品に入れ替えるのだと思いますが……。全面的に改装とかすれば大丈夫なのかな?

まとめ

とても面白かったです。米国ではこのシリーズは続刊の2巻が発売済だそうですが、日本でも早く読めるようになれば嬉しいです。


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