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sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

藤たまき 『密告』


 『出雲』『水を汲みに丘に登った』『ゆりかご』『密告』の4作品が収録された短編漫画集。どれも舞台は現代日本なのですが全作品に少し不思議な要素があるストーリーで、藤さんらしい作品でした。個人的には、上記4作のうち後者2作が特に面白かったです。


『ゆりかご』は、極端に睡眠時間が短いショートスリーパーの受け・センが登場します。面白いですよね、この設定。24時間のうち眠っているのは数分間だけで、あとはずっと起きていられるんですから、もしこんな人が実在したらどれだけ生産性が高いことか。
 攻めの譲はそんなセンと同棲中の恋人ですが、ほぼ眠らないセンの体質に気付いて衝撃を受けます。今まで安らかな眠りを朝まで分け合っていると思っていたのに、恋人は起き出して一人で夜を過ごしていたのか、と。
 結局、センの特異な睡眠状態を治療するという展開に進むのではなく、センは今後もショートスリーパーであり続けるというラストになっています。この結論、なかなか味わい深いと思いました。センにとってショートスリーパーであることは自然なことであり、特に健康に害があるわけではありません。けれど人間は異質なものや自分が理解できないものを嫌いますから、センも以前の恋人に「生理的にダメ」とまで言われた経験があり、譲には自分の体質を隠していました。ショートスリーパーの登場人物がセンとは別にもう一人登場するのですが、その人物は

「フツーじゃないって…けっこー気を遣うんだから。ただ心配をかけない、ただ信頼を得たい、それだけの為にだって素じゃいられないしなぁ。苦労多いよ」

と語っています。ショートスリーパーは現実世界にいる色々なマイノリティにダブる描き方がされていますね。
 譲は受けの体質を受け入れるとともに、ともに眠ることはできなくても他の手段で愛を分かち合うことを示します。この二人、可愛いなぁ。幸せになってほしいカップルだなぁ、と読んでいてしみじみ思いました。



 『密告』は言霊に怯える主人公・戒のお話です。一つ年下の弟・キサ(←木偏に雲という字)が食卓で家族にカミングアウトした四年前、主人公は弟を罵倒しました。

「俺ゲイだから この先男と付き合っちゃうかもしれないけど そこんとこヨロシク」
 その時キサはまだ中二だったけど 運動部でまだドーブツじみていた僕とは ずい分性格も違ってて…
「ダメだ!そんなのは良くない!やめなさい!」
「良いとかやめるじゃなく俺ただ言っときたかった」
 あの日家族にキサが何を言わんとしていたのか 当時の僕が僅かでも理解していたのかどうか… だけど父が泣いたのでなんとしても父の味方をするべきだと思ったのだ
「おいキサ! その…何?ゲイ?恋愛? そーゆーのやめろよ 父さん泣いてたじゃん」
「兄さんには関係ない 俺 両親に話がしたかっただけだ 兄貴どーせまだそーゆーのわかんないだろ」
「何だよそれ!何だっていーからそーゆーのやめろってんだよ!くだらねー!汚らしーし…それに…」
「――はぁ?」
 無知でよーちでまったく口の立つ子供じゃなかったけど 父が泣いたのがショックで… とにかく知っている限りの罵詈雑言をひっぱり出した 
  [~中略~]
 キサの襟足は逆立って怒りは目に見える程だった
「――戒お前は…」
 その時以来弟は僕を呼び捨てにした

このかつて自分が放った暴言によって、男性と恋に落ちた4年後の受けは追い詰められていくことになります。それにしてもこの作品は、主人公とその恋人より弟のキサのキャラが印象的でして、作者さんもあとがきでキサの読者人気が高いと書いてましたが、それも頷けます。中二でこれだけはっきり自分の意思を述べられるのは凄いし、色々な意味で精神的に大人ですよね。



 『水を汲みに丘に登った』では、受けの音貝次流(おとがいじる)が、大学のサークル活動でボランティアに赴いた先で攻めと出会います。手が早いにも程があるよ攻め!とか、流されすぎな上にぼんやりしすぎだよ受け!とか、遵法意識どうした!とか、いろいろ突っ込みどころはありましたが、2010年頃日本で話題になった高齢者所在不明問題を2005年の時点で本作に描いていた藤さんは先見の明があるかも。
 あと、攻めの口説き文句はユニークで面白かったですよ。テーブルを挟み二人が向かい合って座っているとき、

「君はいい奴だジル。その顎もいいし」
「――アゴ?」
「さっき口をおさえた時触ったから」
「ああ…――?」
「オトガイは“したあご”の頤って字かと思ったくらい 惚れ惚れしたね」
「――はぁ…」
「つまり俺ゲイで」
「――…!」
「意固地な老人の世話で毎日退屈で…。そこへ君が来た。髪が良い顎が良い。惚れたかもしれない」

会話の主導権を握りつつ、不敵な笑みを浮かべ、受けの手に自分の手を重ねるなど余裕溢れる態度でさりげなくボディタッチする攻め、侮れない人ですね~。しかもいくら受けの名前が音貝だからって顎を褒める口説き文句というのも個性的で面白いです。


 『出雲』について。付き合った相手が死ぬという経験を二回繰り返した受け。また同じことが起こることを心配し新たに好きな人が出来ても積極的になれません。そんな受けに真正面から向き合い「呪い」を解除する攻めはデキる男でした。



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