木原音瀬 『吸血鬼と愉快な仲間たち』 1
- 主人公:アルベルト・アーヴィング
- 高塚暁
ある夜、警察は真夜中に全裸で徘徊していた外国人の若い男を強制わいせつ罪で捕えた。入国した気配もない男は「強盗にあい、身ぐるみはがれた」というが、日本国内でそんな事件の前例はない。不審に思った警察は、男を一晩拘置所に入れることに。しかし、翌朝、男の姿はきれいに消えていた......。待望の100%書き下ろし最新長編ノベルス。
主人公は吸血鬼の若いアメリカ人男性、アル。ひょんなことから来日し、高塚暁というエンバーマーの家に転がり込むことになります。
痛いと評判なので木原さんの本はある時期まで避けていたのですが、BL界の人気作家さんということで気になっていたのと、この 『吸血鬼と愉快な仲間たち』 はライトなノリで痛く無いと聞いたのと、吸血鬼モノらしいタイトルに惹かれて買った本でした。
確かに、全然痛くありません。少なくとも精神的にエグい展開は無く、あるとすれば主人公の怪我の悲惨さという物理的なグロさでしょうが、こちらも吸血鬼は再生能力があるのであまり読んでいて辛いというわけでもなかったので安心しました。とても面白かったので、それ以来この作家さんの本は新刊が出るたびにチェックするようになりました。
異文化体験ストーリー
この第一巻では恋愛要素はほとんどなく、吸血鬼という特異体質の外国人主人公が日本という異郷で生活していく場所と親密な関係を築ける人を獲得していくというのが話の軸になっています。まさにタイトル通り『吸血鬼と愉快な仲間たち』なのですよね。“吸血鬼と無愛想な恋人”ではなく。そういった経験を通してのアルの成長譚としての面もあり、恋愛要素は薄くても小説としてとても面白かったです。
エンバーマーという仕事
エンバーバーという特殊な職業の仕事風景が興味深かったな。暁はアメリカの葬儀大学出身とのことですが、葬儀大学なんてあるんだ…!と単純にびっくり。確かに遺体という尊厳あるものにメスを入れるのだから、暁のように専門職としてライセンス持ちなエンバーマーに処置してもらうのが一番だと思いますが、まだ日本じゃメジャーな職業では無いのに、これに注目して吸血鬼モノを書いたというのは凄いなぁ。珍しい題材に挑戦するBL作家さんは応援したいです。
お気に入りの脇役は
暁の親友、忽滑谷。木原さん曰く「大らかなS寄りな人」という彼はなんか大物っぽい感じがして好きなキャラです。やり手な刑事なのに、優しげで一人称が「僕」というのがなんともツボ。私は密かに体育会系部下柳川×出来る男忽滑谷も期待しています。
挿絵が美しい
下村富美さんの挿絵も綺麗でした。アルが何気に良い体をしたマッチョに描かれていて嬉しい。
その他
- この巻ではカップリングも不明ですが、後書きによればこれからラブモードに突入するとのことなので、気になるところです。最初は暁と忽滑谷は恋人同士なのかと思っていたら、単に仲の良い友人だったのですね。とするとやっぱりカップリングはアルと暁かなあ。でもどちらが攻めでどちらが受けなのかはわからない…。私としては暁受け希望かな。
- 実は暁と助手の津野というカップルもいいかもと思いましたが、津野は女の子にしか興味が無いみたいなので、この線はないか。
- ところでこの作家さんのペンネーム、「このはらなりせ」さんと読むのですね。ずっと「きはらおとせ」さんかと勘違いしてましたよ。
- この作品、狙ってるのでしょうが、衛生的に怖い描写が結構あります。蝙蝠のひっついていた食用牛肉には小説だとわかっていてもつい「うっ」となってしまいました。さらにモップで下を隠すアル、ゴミや埃や雑菌のひしめくモップを清潔にすべきところに押し付けるのはマズイって!それから他人と下着の共有もどうなんだろう…。これは衛生云々以上に忽滑谷の言う通り哀れなので、ラストシーンは良かった良かったと胸を撫で下ろしました。