sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

よしながふみ『執事の分際』

  • 受け:アントワーヌ
  • 攻め:クロード・ギルベール

執事の分際 (白泉社文庫)

執事の分際 (白泉社文庫)

今はもっぱら一般誌で活躍されているよしながふみさんのBL漫画です。「革命期の恋とは味なもの」と帯に書かれているように、舞台はフランス革命前後、有能な年上執事×貴族の美少年のお話。初出は約20年前ですが、人気作品だけあって今読んでもまったく色褪せていません。

シノワズリ』『ある貴族達の一日』『小姓の分際』『愛とは夜に気付くもの』『執事の分際』『「執事の分際」のすぐ後』『主人の分際』『主人と貴婦人』『雪の降る夜』『ああ主よ、このよろこびを』『永遠に』の計11話が収録されている文庫版で読みました。
 

悶えたい人は読むべき

【主従萌え】

『愛とは夜に気付くもの』を初めとするクロード×アントワーヌの一連の作品は、主従、下克上、執事、貴族、わがままな金髪美少年と萌え要素がこれでもか、というほどたっぷり詰め込まれています。中でもやっぱり特筆すべきは主従要素。どSで有能な執事とお馬鹿な坊ちゃんという組み合わせは、なんとなく英国小説のジーヴズとバーティを思い起こしますが、こういうちょっと下剋上チックな力関係って古今を問わずみんな面白味を感じるんでしょうね。

執事攻めのセリフがいちいちエロくて大変よろしいです。

「私はつくりもののあえぎ声でぼっちゃまのお相手をしてきた可愛らしい小姓達とは違いますよ」

「腰が砕けるほど貴方を愛してさしあげる」

とか、この素晴らしい敬語責め、たまらない。さらに、

「さあアントワーヌ、足を開いて」

というセリフにいたっては、アントワーヌですよ、ぼっちゃまではなくアントワーヌ。主を呼び捨てで、萌えます。悶えます。172ページの大コマで跪いて足にキスする執事の姿はインパクトがありましたし、ホントにクロードは従×主モノのツボを心得えた執事キャラだなぁ。


現状、「慇懃なドS執事」というとBLに限らず漫画や小説で溢れるほど描かれており、一種のテンプレキャラクターになっていますよね。事実、濡れ場においてアントワーヌを慇懃な口調で責め立てるクロードは、そこだけ見るとまさしくそんな類型的なキャラでしかないように思えます(それにしたって、ピカイチなドS執事っぷりですので大層萌えますが)。

けれど、このシンプルな連作の中では単なるテンプレ執事キャラを超えたクロードの人間味をうかがわせるエピソードも入っているのです。例えば、若き日のクロードがアントワーヌの父親である当主に恋をする短編『小姓の分際』。没落に伴い屋敷からは次々と使用人が逃げ出していく中、執事にまで見放されたことを嘆く当主に、当時はまだ従僕の一人であったクロードは静かに語りかけます。

「中国人だったのは私の祖父でしたが」
「?」
「何故か私には少ないはずの中国の血の方が濃く出たらしく、よく中国人に間違えられました。私に良くしてくれた人もそうでない人も、必ず最初はこう尋ねるんです。“お前、その顔、中国人かい?”。だんなさまは何もおっしゃいませんでした」

目を瞠り、まじまじとクロードを見つめる当主。

「…クロード。…お前をたった今からこの家の新しい執事に…」
「慎んでお受けいたします」

深々と頭を下げるクロード。この執事任命のシーンは、印象的です。


洗練された漫画

よしながふみさんの漫画の上手さ、特に余白の使い方の洗練度に関しては多くの人が認めるところでしょうし、夏目房之助氏も称賛を持って分析しているようですから、今更私が言及するのもあれですが、でもやっぱり読むたびにその上手さに唸らされます。

背景が必要最低限しか描かれていないし、描かれているものもそれほど絵に奥行きが感じられるという訳でもないのに、不思議とフランスの貴族社会の話を読んでいるというのが読者に伝わってくるのが凄いです。上流階級で豪勢な生活を送るキャラクターが活躍する漫画では、やはりそれなりに重厚な屋敷の外観だとか豪勢な部屋の内装だとか華やかな都市の様子だとかを私は見てみたいと思う方なのですが、この『執事の分際』ではそのあたりはほとんど描き込まれていません。しかし、貴族らしさを衣装とキャラクターの言動で十分に表現しえています。

さらに、そうすることによって背景の淡白さを補い、或いは淡白な背景こそがこの漫画に効果的であるという描き方さえしている。

このように衣装と台詞と仕草で貴族らしさを演出する一方で背景は簡素だという点で、よしながふみさんの漫画はどこか舞台演劇と共通する部分があるなぁと感じました。映画ではなく舞台演劇。この方の個性であり持ち味だと思います。

オチの上手さ

それとこの作品集はオチのつけ方がどれも巧いです。ちゃんと読者に笑いを提供して終っていて作家さんのサービス精神を感じます。クロードの嫉妬を「暗い奴!」の一言で笑い飛ばすアントワーヌの明るさ、好きだなぁ。


その他

  • 最初、攻めが受けを「ぼっちゃま」と呼ぶのは、なんとなくギャグの雰囲気が漂っている感じがしてあんまり萌える呼び方じゃないなぁ、「アントワーヌ様」の方がいいのに、などと思っていたのですが、読み進めていくうちに慣れてきたのか「ぼっちゃま」呼びでも違和感を感じなくなってくるどころか、一番しくりくると思うまでになりました。アントワーヌの性格は確かに“ぼっちゃま”という感じだ。
  • アントワーヌって、可愛い少年を抱いたりしてるんですよね。つまり受けでも攻めでもいける性質だってことみたいです。いかにも美少年という印象の外見や性格からアントワーヌはいつでも誰が相手でも受けだと思っていたので、ちょっと意外でした。
  • めでたしめでたし、と言いたくなるようなクロード×アントワーヌのラストに対して、『シノワズリ』と『ある貴族達の一日』のド・フォンタンジュ伯爵×セルヴィニアンのお話はほろ苦く切ないです。革命の時には伯爵は既に老境に達していたと思われますが、どうなったんだろう。もう死んでいたのか、外国へ亡命したのか、断頭台送りになったのか…。
  • 時代柄男性の登場人物は皆キュロットを穿いているので、タイツに包まれたふくらはぎを線もあらわに晒しているのですが、最初はなぜかそのヴィジュアルが衝撃だった…。

まとめ

これぞ年上有能執事モノという感じの本でした。とても面白かったです。よしながさん、またBL描いてくれないものかな。



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