ヨネダコウ 『どうしても触れたくない』『それでも、やさしい恋をする』
この2作は、登場人物が関連しあっているリンク作です。
先に発売された『どうしても触れたくない』はとある企業のシステム課の課長(29)×中途の新入社員(26)の物語。そこに主役カップルの理解者として出ていた同僚の脇役が、今年発売された『それでも、やさしい恋をする』では攻めとなっています。
どちらの作品も現代日本を舞台にサラリーマン同士の恋愛を描いていること、受けがゲイの自覚を持って生きてきたキャラクターなのに対して攻めは初めて男性と付き合うノンケキャラであること、ストーリー展開は地味ながらも繊細な心理描写に読み応えがあってジワジワと心に沁みる切なさあり、という点が共通しています。
双方面白かったんですが、どちらかといえば私は『それでも、やさしい恋をする』の方がより好みだったので、このエントリでは以下そちらの方の感想を述べていきます。
『それでも、やさしい恋をする』は、違う会社に勤める社会人同士が、スポーツ居酒屋で共通の知人を介して出会い、数年間の飲み友達としての関係を経て、恋人になる話です。受けは営業職の遊びなれたゲイで、攻めは3歳年下の地味ながらも優しげなメガネ男子。
萌えたところ
【繊細な描写】
派手な事件は起こらなくても、描写が繊細なのでとても読ませるんですよ。
先に相手に恋をしたのは受けなのですが、彼の片思いが健気で泣かせます。受けはモテるタイプで恋愛事の経験もそれなりにありアグレッシブな性格です。ですから、もしも彼らがゲイ同士だったならば受けはもっと早く攻めにアプローチを仕掛けていたでしょうし、ヘテロの男女同士だったとしてもそうだったのでしょう。しかし、相手が彼女持ちのノンケだったからこそゲイの受けは3年もの長きにわたり片思いをする破目になるのでした。
20代後半から30歳前後の3年間の片思いって苦しいよなぁ。
二人で飲んでいたある時、攻めは職場の同僚がゲイだという話題を出します。リラックスした雰囲気の中、攻めは気負わない素直な態度で、同性愛に対してわりとフラットな語り方をするんですね。頭ごなしに否定するような言葉は吐かず、「同性でも好かれる分には嬉しい」とまで言う。
受けは自身が同性愛者であることは伏せつつ、さりげなく攻めの考え方について探りを入れてみたり、「ふーん」と静かに聞いていたりするのですが、このあたりの描写が上手いなあと思いました。うつむいた受けの表情を描きこまないコマを配してあって、何気なさを装っているけれど実は受けは攻めの語り方をとても意識している、というのが良く伝わってくるんですよ。
ちなみに、同僚のセクシュアリティを本人のいないところで共通の知人に微妙にアウティングしてるのはどうかと思うけど、攻めがフォビアっぽいこと言う奴じゃなかったのは、受けのために良かったなーと安堵しました。素敵だなと思いを寄せてる相手が差別意識に凝り固まっているような人物だったりしたら幻滅するし悲しいもんね。
ところで、ゲイの受けは3年間気持ちを打ち明けなかったけれど、一方でノンケ(だったはず)の攻めはあっさり実は同僚男性に少し惹かれていたと受けに話すんですね。この言動の対照性も面白いしうまく出来ていると思います。攻めはセンシティブな秘密を打ち明けられるほどの間柄だと受けに対して心を開いていたのでしょうが、恋愛対象として意識していないからこその無邪気な振る舞いなんですね。受けは、ゲイであることを引き受けてきたからこそカミングアウトすることの重みを知っているし相手が恋愛対象だからこそ友人関係でさえ壊すかもしれない不用意な言葉は3年間言えないままだったわけで。
しかしそんな受けも、攻めが男を相手にするかもしれないという僅かな可能性を見出した際、いよいよ動き出します。真剣な思いをぶつけて重めに迫ろうか、軽いノリで口説き落とそうか、ドキドキしながら攻略方法をシュミレーションしている場面が面白いw
【表紙が美しい】
サムネをご覧の通り、2作とも雰囲気のある良い表紙ですよね。抑えた色調が美しいです。ドラマを感じさせるというか、とても叙情的で、思わず表紙買いする人も多かったんではないでしょうか。