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sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

一穂ミチ 『アロー』

居候×バー経営者のお話です。舞台は受けが一人でマイペースに切り盛りしている場末のバー。そこへ中学時代の同級生である攻めがやってきて、飲んだくれたのをきっかけにバーの上階に住む受けの元に身を寄せることとに……、という設定に心惹かれて手に取りました。
私も含めたぶんそういう人は多いんだと思いますが、料理人や飲食店が題材として使われている作品ってつい読みたくなってしまいます。
毎日ぎゅうぎゅうの満員電車で通勤している勤め人としては、受けの職住近接っぷりにちょっと憧れてしまうなー。レトロブームに乗っかってやや見直されつつある古い町、そんな町に位置する住商一体の町家型店舗、1階は常連がたむろする小さなバーで2〜3階が居住スペース。羨ましい。

同居する二人の細やかな日常生活の機微を描いた本作では、劇的な大事件などは起こりません。常にローテンションで淡々としています。主役2人のキャラクターも、一緒に住む相手の素性に頓着しない、関係性を曖昧なままでいようとする、流されるままに生きていく、というような無駄な力の入っていない人達です。近所の銭湯に行ったり近隣店舗の人達と交流があり河川敷で野球をしたりなど、それなりに地元密着で地に足の着いた生活をしている描写はあるし、本当は受けも激しく燃える想いを秘めているのですが、終始2人には掴みどころの無い印象が付き纏いました。
でもこの2人はお互いの波長が合うんだろうなー。それが自然なことのように一緒に暮らし始めて、多少の波風はあっても共にいるのが落ち着く、というのはわかる気がするお似合いなカップルでした。2人で鉢植えほおずきの世話をしているエピソードは微笑ましかったです。

貧者の一灯という言葉の意味や、古代エジプト人も静電気の存在を知っていたなどの小ネタは興味深かったかったですし、攻めが再就職(?)したパズル作家というマイナーな職業チョイスも意外性があって面白かったです。脇役の元いじめられっこ現ヤクザ張りの強面キャラの金子とその彼女はやたら良いキャラをしていました。

ただ、難点を言えば、この作品は初読のとき結構読み辛く感じたのが残念でした。まず、受けと攻めの名前が似ている(「草」と「麦」でどちらも漢字一文字の植物系の名前)にもかかわらず、地の文では下の名前で記述される一方で会話文では苗字で呼び合っており、どっちがどっちだか覚えにくく冒頭のシーンでは読み進めるのに苦労しました。また、視点が変わって誰がその台詞を言っているのか一瞬判りづらい箇所もありました。私自身の読解力のせいもあるのだとは思うのですが、他の一穂さんの作品では今まで特にそう感じたことはなかったので、一層この作品の読み辛さが印象に残っています。

余談ですが、この作品の舞台の店舗街は「地獄谷」と呼ばれているという設定があります。てっきり架空の地名なのかと思っていたら、ネットで調べてみたところ都内にも大阪にも神戸にも「地獄谷」と呼ばれる飲食店街は実在しているんだとか。浅草で買ってきたほおづきが作中登場しますので、やっぱりこの町のモデルとなったのは、都内のJR大森駅高架近くの山王小路飲食店街なんでしょうかね。渋い。



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