水上シン 『利火羅』
ビーボーイコミックス 2003
- 攻め:聖天
- 受け:利火羅
『利火羅』『牢獄に咲く花』『未練』『セミダブルベッドで君と』『タッチアウト!』の5編が収録された短編集です。前3つは古代中華風、残り二つは現代日本もの。どの作品も性描写は濃い目でした。
2003年発刊というと、もう10年以上前の作品ですね。表題作は雑誌掲載当時リアルタイムで読んでいて、とても気に入ったのでその後単行本も買いに行きました。『利火羅』は妾腹の皇子×虜囚となった異民族の長のお話です。この単行本の中でというだけでなく、既読の水上シンさんの作品の中で一番好きです。
好きなところ、萌えたところ
『利火羅』は、短編ながら“蛮族”の捕虜、簒奪、父子間の対立、正室腹と側室腹の異母兄弟の確執など、ドラマチックなエピソードが多く詰め込まれています。一冊くらいかけて丁寧にストーリーを描いて欲しかったと思わないでもないのですが、短編だからこそ怒涛の勢いがある作品になっているのかなとも思います。少々の不自然さは吹き飛ばす、まるでジェットコースターのような怒涛の勢いが読んでいて楽しかったです。
ストーリーは、‘悪逆な王に陵辱される美しい人を救い出し、悪者は倒し、少年は王になる’という古典的英雄譚を踏まえたもの。もちろんBLですから、主人公の少年・聖天が助け出したいと願う美しい人・利火羅は、色っぽくて気高い美人なお兄さんです。
この利火羅のエキゾチックなキャラデザが凄く好きです……! お色気がダダ漏れで実に良い! 残酷な鬼ごっこで追われる利火羅が、草薮の中に飛び込んできて聖天に跨るシーンは綺麗だったなぁ。単行本の表紙もキャラクターのイメージにあった炎を思わせるイラストで好きでした。利火羅は存在感もあったし、力のある猫のような目や細身で筋肉質な体つきには滴るような色気があります。
実は途中まで、私は利火羅攻めなのかなと少し思っていたんですよ。残虐な悪役たちからは陵辱されてしまうけれど、聖天に対しては攻めになるんだろうか、と。利火羅には結構雄雄しい印象もありましたし、一方で聖天は気質も素直、背も利火羅より頭一つ分以上小さく、利火羅に厳しいことを言われて涙目になっていたりもしていたので。
ところが読み進むうちにこの年下×年上カップルがしっくりしてきました。拷問にあっても部族の誇り高さを失わない利火羅は、抑圧されるばかりの聖天の意気地の無さを侮蔑する言葉を吐きます。また一方で、唯一の友だちであった犬を殺され嘆く少年主人公を、利火羅が年上らしい懐の深さをもってして包み込むエピソードもあります。濡れ場方面でも手ほどきしてあげてるし。色々な場面で、受けが主人公の成長を促す導き手になっている様子が萌えました。聖天が利火羅にどんどんのめり込んで行くのがよくわかります。聖天はこのお色気ムンムンなお兄さんに育てられてイイ男になるといいなー。
攻めの成長と、悪者退治、恋愛の成就がちゃんとストーリーとして短いページ数の中で絡み合っているのは凄いです。力技ですが、よくまとめたと思います。
ちなみに、水上シンさんはこの『利火羅』の頃の絵が一番番好みでした。絵柄のこってり具合も最適な感じで、古代中華風の宮廷を舞台としているのに相応しく華やかです。
その他
- 聖天が利火羅にどんどん惹かれていく過程はよくわかるのですが、それに比べると利火羅が聖天を好きになる描写はやや薄いかも。やはり聖天の優しさや素直さ、純情さゆえに心が揺さぶられたのでしょうが、少なからず同情心や年少者への庇護欲を掻き立てられた面もあるような気もします。
- 少年の君主で国が治まるのかとか跡継ぎはどうするんだとか利火羅の一族を失くした悲しみだとか色々気になるのでぜひ続編も読んでみたいです。続きは同人誌等で描くとのことですが、できれば商業で『利火羅2』を出していただきたいな。ちなみに、あとがきには数年後の大人になった聖天と利火羅のイラストが載っていました。成長した聖天は利火羅よりも背が高くなっていて、利火羅はあまり外見は変わっていないように見える。老いさえ避けて通るのか?
- 『未練』の攻めも「利火羅」という名前なのですが、『利火羅』の受けとは別人、ということでいいんですよね?黒髪に浅黒い肌そして辺境の異民族の長など共通する部分も多いのでなんか気になってしまいました。
- 『牢獄に咲く花』は囚人×裁判官のお話なのですが、牢屋の柵越しの性行為には正直ぶっ飛びました。凄い。エロい。