sorachinoのブログ

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水原とほる 『義を継ぐ者』

義を継ぐ者 (キャラ文庫)

義を継ぐ者 (キャラ文庫)

ヤクザもの、年下攻め、下克上、という作品でした。個人的に前者2つはそれほど心惹かれる要素というわけではないのですが、この小説の下克上は良かったです。

年下で自分より序列が下だった相手がいきなり自分の直属の上司になるって、結構キツいですよね。受けは淡々とその状況を受け入れていましたが、かねてから気になってちょっかいをかけていた相手を思いがけず配下にすることができた攻めの言動が浮かれすぎでなんか面白いです。支配的に振舞って受けを傲慢に振り回します。そのはしゃぎっぷりを見るに、攻めは相当嬉しかったんでは。
受けも攻めも黒社会の人間ですが血なまぐさい立ち回りシーンは少なく、凶悪で暴力的なヤクザ者という印象はあまりありません。

一方で、登場人物たちは跡目争いの中であがく組織人としての姿の方が強調されて描かれています。タイトルからして「義」という言葉が入っていますが、作中でも任侠道的な心持だとか杯を交わした親子・兄弟間での絆について言及されていて、組織の中での人間関係に重きを置いてストーリーが進んでいきます(所詮ヤクザなのになんだか美談風に回収されるエピソードも結構あって、そのあたりが少し鼻につかないでもないですが)。組織の中枢で資金運用というインテリな仕事をしていた受けが、凋落を機に泥臭いシノギの現場回りを経験することになります。そこで初めてせっせと資金を集めてきていた末端組員の苦労に感じ入る描写がありましたが、これなんてもろにサラリーマン小説のノリですよね。上下関係だとか組織人としての立場をきちんと描いているからこそ、本作では下克上がよりドラマチックなものになっていると感じました。

余談ですが、私は攻めのお母さんがなんか気になってしまいました。夫は逮捕されるわ息子は極道になるわでさぞ大変なことでしょう。このお母さんのことを考えると、攻めは受けと一緒に足を洗って新たな人生を歩み出すっていうラストでも良かったのでは、という気がします。受けも攻めも一般社会でも十分成功しそうな有能な人なのですから。

そういえば、水原とほるさんって中華系の人が出てくる作品を結構書いてるんですね。今回も何気に受けが台湾出身のキャラで少しびっくりしました。香港や上海が舞台のBL小説は読んだことありますが、台湾人が出てくるBLは初めて読んだなぁ。以前私は台湾旅行に行ったとき鼎泰豊の小龍包のあまりの美味しさに大感激したのですが、攻めも受けに美味しい小龍包の出てくるお店に連れて行ってあげればいいと思います!