遠藤春日 『砂楼の花嫁』
- 作者: 遠野春日,円陣闇丸
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2008/01/24
- メディア: 文庫
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中東の砂漠の国の皇太子と、そこへ派遣された東欧の国の軍人によるラブストーリーです。
主人公は軍人ですし反政府主義組織が起こした誘拐事件なども作中で描かれてはいるのですが、血なまぐささは個人的にほとんど感じませんでした。
むしろ、主人公が控えめで儚げな麗人という綺麗なお嫁さんタイプだったり、相手が砂漠の国の男らしい外見のプリンスだったり、スイスのレマン湖のほとりの古城で愛を確かめあったり、綺麗な花嫁衣装を着て結婚式をあげたり、挙式の宴席でワルツを踊ったり、相手が愛のために皇太子という地位を捨てたりなど、かなりロマンチックなテイストに仕上げられているなぁと思いました。
まぁタイトルからして「花嫁」という単語が入っているくらいですからね。ちょっとハーレクインっぽい感じがするのも当然なのでしょう。
ところで、この作品の主人公は両性具有という設定です。
商業作品で読む機会はあまりありませんでしたが、私は結構この手の権力者や富豪と恋に落ちる両性具有の話はウェブ小説のオリジナルBLでよく見かけています。そういうウェブ小説の中では、両性具有のキャラクターたちは相手の跡継ぎを生み、正式な妃として遇せられるパターンが多いんですよね。
普通の男性同士だとこどもを作れないので後継者問題を解決するには親戚の若者を養子にとるとか(例:かわい有美子『上海』)、他の女性に子供を産ませるとか(例:和泉桂『罪の褥も濡れる夜』)等しないといけませんが、カップルのうち一方が両性具有ならば跡継ぎをその両性具有自身が(産める設定なら)産めばいいということになります。
だから、私はこの作品も主人公が正式に妃となってこどもを生んで大団円で終わるのかなと読みながら予想していました。なんといってもラブストーリーのベタな設定やシチュエーションも多々ある作品ですから、BLといえど結婚と妊娠出産はやるんでないかと思ってました。
ところが蓋を開けてみれば「体が弱いため子供を作ることができず、他に愛人を持つことも考えられない」という口実で親族を説得し、相手が皇太子の座を降りるという結末。少し驚きつつも、なるほどこうくるかーと思いました。
結構ハーレクインっぽい展開が続いたけれど、男女を主人公としたロマンス小説ではもはや必須となりつつある出産ラストはあえて回避したんですね。安易にお約束ラストに流れなかったのは良かったかも。
ちなみに、イズディハールの双子の弟のハミードの方が毒のある性格で、キャラクターとしては面白かったかな。
円陣闇丸さんの挿絵が素敵でした。