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sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

緑川ゆき 『蛍火の杜へ』

私もオタクの端くれなので漫画と小説の類はそれなりに持っております。それらの書籍がですね、ここ数ヶ月とうとう自室の本棚に収まりきらなくなりまして、いい加減処分しなくては考えていたんですよ。先日、重い腰を上げて整理を始めました。手放す古い本を一箇所にまとめた際、捨てる前にとりあえずざっと目を通してみるか、と一冊手にとって何気なくページをめくり始めたんですが、改めて読み返してみると、

あれ?なんか、これ、しみじみ読ませるじゃんか……。


蛍火の杜へ (花とゆめCOMICS)

蛍火の杜へ (花とゆめCOMICS)


この短編集には春夏秋冬の四季の中で繰り広げられる4つのカップルのお話が入っています。


それにしても4作品中、半分を占める2作品しか完全なハッピーエンドがないって凄いなw華やかさはないけれど、逆にそれがいい。捨てるとか言ってすいません。もちろん本棚に戻しましたよ。
優等生の女の子と乱暴者だと周囲から認識されている男の子がギターを介して関係を深める学生物『花唄、流るる』、妖怪と少女の触れ合いを描いた『蛍火の杜へ』の2作品が特に印象深かったです。どちらも、これぞ少女漫画!と言いたくなるような情感豊かで切なさの染み渡る作品でした。すっとキャラクターの気持ちに入っていけるし、季節感やその場の微妙な空気まで感じ取れるのです。演出の仕方が巧みなんでしょうね。トーンの使い方、白と黒の画面比率、網掛けのタイミング、コマ割り、モノローグの配置、などが地味だけれど丁寧になされていました。この画面構成の繊細さは好きだなー。

季節を描くのは好きです。黒と白の二色を使って色んな色を錯覚して頂かなくてはいけないので影や緑、光や赤などが濃い夏冬は描いていて気持ちがいいです。

とご本人も書いてらっしゃいますが、確かに『蛍火の杜へ』の明暗のくっきりとした情景描写は特に力を入れてるんだなぁと伝わってきましたよ。濃い影を落とす夏の強い陽射しや、山深いところに吹く夏の清涼な風が頭に浮かびましからね。
『花唄、流るる』だと、ギターを練習している男の子たちがいる部屋から「じゃましてごめんなさい」と主人公の女の子が出て行こうとしたときに、相手役の男の子が

島さん 聴いていくならここにすわりな  おれ 椅子もうひとつ持ってくる

と言ってひきとめるシーンが好きでした。主人公もここで相手役の男の子の優しさに気づくんですが、こういう細やかな心配りをしてくれた男の人にときめく気持ちってわかるわかる!と思わず頷きながら読んでました。小さなエピソードだけど心の動きを丹念に拾い上げている描写が良かったです。
蛍火の杜へ』だと、やはり木の上から落ちそうになった主人公の女の子を、妖怪の男の子が受け止めて助けようと一瞬手を広げかけたところが良かったかな。人間に触れられると消えてしまう妖怪の男の子は危ういところで伸ばしかけていた手を引いたわけですが、この強制プラトニック設定は恋愛にはツライよなー。その後彼が長年見守ってきた主人公ではなく、一見の子どものために消えてしまうっていうのを考えると、なお一層このシーンは切ないわ。
それと、

「何かデートみたいデスネー」
「色気のないデートデスネー」

という主人公が子どもの頃のやりとりと、

「デートみたいデスネー」
「デートなんデスネー」

という主人公が成長してからのやりとりの対比は微笑ましくてよかったなぁ。
ただ、正直なところ、絵はそんなに上手くはないと思う。キャラクターの表情とかちょっと茫洋としているように見えて、あまり描き分けもされていにないように感じてしまったので。
最近知ったのですが、表題作の『蛍火の杜へ』って今年(2011年)にアニメ映画化されるらしいですね。いやーびっくりした!2003年に発刊された単行本の短編が10年を経て劇場版アニメになるってあんまりないパターンだと思います。それだけ『夏目友人帳』のブレイクが凄かったってことなんだろうなぁ。5〜6年前にこの作品を知った身からするとなんか感慨深いです。