sorachinoのブログ

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藤たまき 『夏の名残りのばら』

夏の名残りのばら (キャラコミックス)

夏の名残りのばら (キャラコミックス)

徳間書店、2004年

  • データ・ダルベ
  • ルース・アンジェラ


数ヶ月前、金曜ロードショー宮崎駿さんの映画『耳をすませば』が放映されていました。観てるこっちが照れちゃうような台詞の数々や青春の甘酸っぱい場面にきゅんきゅんしつつ楽しんでいたのですが、聖司くんのヴァイオリン演奏場面を観ていたら、触発されて読み返したくなったのがこの本でした。

『夏の名残りのばら』にもヴァイオリン職人を目指す少年が登場するのです。データという名の彼と、同世代のヴァイオリニストの卵の少年ルースとの友情や成長を描いた作品です。舞台は北米の田舎町。

実は『夏の名残りのばら』は、初読のときあまり印象に残らなかったのだけれど、じっくり読み返してみたらしみじみ美味しい作品でした。


《面白かったところ、萌えたところ》

【夢、希望、純粋さ、少年時代のきらめき】

藤たまきさんの漫画はどれもリリカルで透明感がありますが、少年の成長がテーマのこの本は特にその作風にぴったりハマっていました。夢や純粋さの溢れる詩的なモノローグ、背景の自然描写と光の表現が、とても優しく綺麗に少年期の輝きや揺らめきを描き出していました。少し御伽噺めいたのどかな雰囲気も作品に合っていたと思います。

「ねえルース待ってて?
俺が職人になってやがてマイスターになったら…俺のサインの最高級品を君に必ずプレゼントするよ
そしてそれを君に世界中の大ホールで鳴らしてもらうんだ!
ねえきっとそうしよう
世紀の名ヴァイオリニスト
世紀のヴァイオリン名工!
僕ら有名な親友同士になるよ」

この年頃で、これほど明確に将来やりたいことがあり、それを叶える途上にあるというのは幸せなことなのでしょうね。2人とも爽やかで清らかで、眩いくらいキラッキラしてます*1

歴史を誇るオールドの楽器を前にして、自らの未熟さを思い知らされたデータ。周囲からの声に惑わされ、打算と無意識のおもねりを覚え、亡兄の演奏をなぞろうとするあまり自身の演奏を見失ってしまったルース。二人の初めての挫折とそれを乗り越える姿を読んでいると、素直に応援したくなりました。過去の偉大な職人たちによって生み出されたオールドの豊潤な音色を認めることも、人に賞賛されたいという気持ちに振り回されずに歩んでいくことも、彼らの成長にとって必要なことだったのでしょう。

ところで、ルースは驚くほど純粋無垢で世間知らずなキャラクターです。彼を優しく見守るデータの包容力は幼いながらなかなかのものだと思います。データは将来いい男になりそう。


【ヴァイオリンというモチーフ】

クラシック音楽ものは演奏者にスポットが当てられることが多いので、本作のように楽器製作者の視点から、楽器の修理と手入れについてや、オールドへの感嘆と新作への気概について、ヴァイオリンという楽器の優美さについての話題がちらりと出ているのは面白かったな。
ルースの養親アッシャがルースの楽器の手入れに関する失敗談をデータに語り、2人で「おそろしー」と怖がってるコミカルな場面は微笑ましかったです。この場面のアッシャはかなり素直に内心を吐露しており、演奏者からの楽器への愛情が見えるし。それにしてもグァルネリとストラディヴァリウスを両方持ってるって凄いわー。
ヴァイオリンってやっぱり魅力的なモチーフですね。まつわる数々の伝説、優美な曲線と木のぬくもりを帯びたつやつやな表面、そして独特のシルエット。とてもロマンチックな楽器だと思います。



《その他》

  • この記事にはやおい/BLタグをつけているけれど、実際のところこの作品はラブを主題においておらず、恋愛色は限りなく薄かったです。データとルースはお子様だし爽やかで健全なノリが漂っています。むしろアッシャとルースの亡兄マリスの方が色っぽさがあったったんじゃないかと想像を掻き立てられました。20そこそこの若者が、自身の華やかな将来を全てなげうって亡き親友の弟を引き取り流浪の旅に出るって物凄い覚悟だったでしょうに。本人はあまり望んでいなそうですが、アッシャが音楽業界でもう一度評価される日がくるといいなと思います。
  • てっきりバイアーズって何か悪事を企んでそう〜と思いつつ読んでたら、普通に良い人だった。

《まとめ》

夢と希望でいっぱいのキラキラした少年たちを見たい方におススメです。明るい青春を楽しめました。

*1:美少年という意味ではなく。