神奈木智 『若きチェリストの憂鬱』
受けがチェリストを目指す学生です。チェロをやる代わりに匿名の援助者から学費や生活費を受けているという設定があり、一種のあしながおじさんBL版でした。
クラシック音楽ものの創作物となるとピアノやヴァイオリンが主流を占めているので、チェロにスポットが当たった作品というのは嬉しかったです。チェロも素敵な楽器ですよね。音色が豊かで個人的に弦楽器の中では一番好きだー。
出番は少ないながら石岡という脇キャラがとてもいい奴でした。人懐っこくて可愛い。皮肉屋でぶっきらぼうな天才受けと、明朗快活で努力家のクラスメート攻めというカップリングでも楽しめたかも。
一方本命の攻めは、受けに負けず劣らず不器用な人。不器用なりに攻めが受けの心を開かせようと力強いメッセージでアプローチを繰り返し、受けが弾き続けたいという自分の気持ちに向き合えるようになった展開は良かったなぁ。ちゃんと受けの気持ちを受け止めようとしているのがよくわかるんですよ。
ところで、主人公がチェロを辞めると言い出した理由について詳細が明かされないまま中盤まで読み進むことになるので、その点少し共感しにくかったような……。随所に謎が散りばめられた本作では、もちろん、それらの伏線はラストまでに全て回収されます。けれど、種明かし後の攻めのスペックの高さや、大掛かりな身代わり作戦はファンタジックすぎるように感じました。