sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

トーリ・フィリップス 『道化師は恋の語りべ』

株式会社ハーレクイン、2007年7月1日。HQB−90。
翻訳:古沢絵里
原題は『Fool's Paradise』。

  • ヒロイン:エリザベス・ヘイワード(19)
  • ヒーロー:リチャード・タールトン(28) 愛称:ディコン。

道化師は恋の語りべ (ハーレクイン文庫)

道化師は恋の語りべ (ハーレクイン文庫)


1586年8月、エリザベス女王一世が治めるイングランド
財産目当ての婚約者に父を殺された荘園主の娘エリザベス。彼女は婚約者から逃れるため、男装をし、旅の宮廷道化師タールトンの弟子になりすまして女王の宮廷へ向かいます。長く美しい金髪を切って、ロビンと名乗り、小汚い粗末な服を着て……。


旅の道化師がヒーロー。敵の目を欺くため男装するヒロイン。
これは面白そうだなぁと以前から書店で見かけるたびに思っていました。実際、とても面白かったです。読み始めたら止まらなくなって、一気に読み終えました。もっと早く手に入れておけばよかったなぁ。


《萌えたところ、好きなところ》

【旅芸人の生活】

吟遊詩人や旅芸人、琵琶法師、巡遊伶人など……古今東西の旅する芸能者という存在がもともと好きだったせいか、ロードムービー風に道化師とその弟子に扮した2人が旅の中で惹かれあっていく展開はとても好みでした*1。彼らは、市場や居酒屋、領主の館や大学の学生寮などで歌や曲芸を披露して路銀を稼ぎつつ、村や町を回ります。
最初は人前で歌うなんてと渋っていたヒロインが、ヒーローに強引に引っ張り出されるうち、聴衆から拍手喝采をもらうと嬉しそうになるシーンは楽しそうで高揚感を感じました。テーブルの上に乗っかって口上を述べたり卑猥な小噺やらきわどい歌を披露するヒーローが、いたずらっぽく「悪魔めいた笑顔」や「小鬼のような笑顔」を浮かべている描写なども道化師らしくて良かったです。ちょっと持ってる毒をちらつかせるくらいの方が芸能者らしいですね。
旅の途中では、さまざまな人との出会いが描かれます。また、追っ手に追いつかれそうになったり、ヒロインの変装がばれそうになったり、ヒーローの出生が明かされたりなどの事件や冒険があり、ワクワクハラハラさせられました。

【明るくて前向きなヒーローとヒロイン】

物語は全体的にどこか明るくコミカルなトーンが漂っています。それはきっとヒーローとヒロインの性格によるところが大きいのでしょう。
特にヒーロー。この人は道化師らしく、明朗でユーモアもたっぷりある人です。旅慣れてて頼りになるし、いつも元気いっぱいで、こういう旅の道連れは心強いだろうなあと思わせるキャラクターでした。ヒロインに対しても、

彼はエリザベスを抱き寄せて、優しく揺すった。
「よしよし。もう大丈夫だ」

と慰めたり、

「元気を出しな、ロビン。ぶどう酒を少し飲んでみなよ。お日さまみたいな味がするぞ」

と陽気に励ましたり、石鹸や靴を調達してきて思いやりを示したり、楽しそうにからかったり、「起きろ、ねぼすけ」「よく言った小僧」などと乱暴な口調の親方を笑いながら演じてみたり、感情豊かに接しているのが良かったです。

「あんたが流した涙一粒につき、笑いに満ちた一日を約束するよ。」

という口説き文句をさらっと言えるのも素敵。
ヒロインも純情で可愛いらしい女の子です。お姫様育ちのわりには、なんだかんだ言って結構旅の見習い道化師生活に馴染んでたりして、なかなか素直で伸びやかな人という印象。
2人とも魅力的なキャラクターでした。

【お姫様と道化師という身分差】

平民の男性と貴族の令嬢という身分差もののロマンスでもある本作。
正直、ヒーローの生い立ちを考えると、道化師夫婦として楽しく暮らしていくというハッピーエンドもありだよなーと思いつつ読んでました。ヒーローってなんだか貴族って感じの性格じゃないし、歌ったり芸を披露しているときとても魅力的だったので。それに無知な芸人として若い日に鞭打たれた屈辱とか、貴族の実父から虐げられた悔しさは捨て切れないでしょうし。
ところが、結局ヒーローは自分を捨てた貴族である父の財産と地位を受け継ぐことになります。それにともない、最終的に主人公は全てを手に入れます。愛する夫、可愛い子ども達、伯爵夫人という社会的地位、領地と財産、君主からの寵愛。まあ、できすぎと思わないでもないけれど、この大団円はロマンス小説ならではのご愛嬌といえる範疇かもね。



《その他》

  • そういえば「オートミール色」ってどんな色なんだろう?茶色っぽいのだろうなというのは想像できるんだけど、あんまり私はオートミールを食べないせいかピンとこないな。
  • 今回トーリ・フィリップス(Tori Phillips)の本を始めて読みましたが、他の本も読んでみたいなあと思いました。著者紹介を読むと、作家本人も女優や脚本家としてのキャリアをお持ちとのこと。今回のように芸能者をヒーローにしたのは自分自身の仕事の影響もあるんでしょうか。
  • 道化師のタールトンって、やっぱりエリザベス一世の時代に実在した道化師リチャード・タールトン(Richard Tarleton)をモデルにしているんでしょうか。同時代の作曲家ジョン・ダウランドは彼をモデルに「タールトンの復活(Tarletones riserrectione)」というリュート曲も作っており、とても人気のある道化役者だったとか。

《まとめ》

中世イングランドを舞台にしたロードムービー風ロマンスです。明るくて楽しい本でした。

*1:領主の館で白鳥の嘆きの歌を紹介するタールトンの口上を読んでいたら、万葉集の乞食者の蟹と鹿の歌を思い出しました。