sorachinoのブログ

BLやラノベ、少女漫画、ロマンス小説等の読書感想ブログ。お気に入り作品には★タグをつけています。どちらかと言うと新刊より古い作品に言及することが多いかも。ネタバレ多数。コメント大歓迎です。

藤たまき 『アタ』

アタ (ミリオンコミックス 26 CRAFT SERIES 18)

  • 受け:アタ
  • 攻め:石神影郎

 面白かったです。受けと攻めは幼馴染のように或いは兄弟のように1つの屋根の下で一緒に生い育ってきた二人。攻めは私立高校2年生、受けは一つ年下の書店員です。攻めの親友と受けが付き合うようになった時、受けと攻めは自分の中にある互いへの想いに向き合わざるを得なくなっていく、というお話でした。

表紙が印象的で好き

 まずは表紙がすっごく良い!『遊覧船』の表紙も良かったけど、この本の表紙もかなり好き!そもそもこれを絶対買おうと思ったのは、評判が良さそうだったからという理由の他に、ネットで検索していて画面に表示された表紙に惹かれたから、というのもありました。柔らかい緑とピンクの色使いも幸せそうな二人の表情も本当に美しい。

 藤たまきさんの持ち味である繊細な絵、綺麗な雰囲気を今回も存分に味わえるというのが表紙からよく伝わってきますね。少女漫画的というか、儚いというか、とにかく乙女心(?)が刺激される作品なんだろうなと期待が上がります。

 アタが持っているのは手帳かな。今後の予定を書き込んでいく手帳って、やっぱりアタと影郎の祝福された未来を象徴しているのでしょうか。

背景も綺麗だった

 気象と連動して訴えかける心理描写が多くありましたが、どの場面も良かったなぁと思います。例えば、攻めとその親友が殴り合いをするという衝突の起こった日、またそれは攻めと受けが同じものを惜しみつつも二人の見るベクトルが違うために受けが涙を流す日でもあるのですが、雨の降り続けている様子が描かれています。不穏さ、不安、悲しみ、涙、別離、それらを象徴するかのように空模様も思わしくなく雨を降らせている。

 こういう気象現象と登場人物の心理状態を連動させるのって古典的で普遍的な表現手法なのだけれども、そういった表現をきちんと一つ一つ着実に積み重ねていくと、やっぱり物語の最後にはぐっとくるし盛り上がるなぁと改めて思いました。物語の盛り上げ方が上手い作家さんなのだと思います。

 夜の描き方も印象的でした。受けと攻めが一つの布団の中で添い寝する場面では星空の描写が約5ページに渡って幾度も続いて登場していて、キャラクター達が室内にいるにもかかわらず、外の満天の星が瞬く夜というイメージを強く読者は受け取ります。その星降る夜というのが、なんかロマンチックなシチュエーションに仕立てているのだと思う。ちなみにhttp://www.bs-garden.com/system/search.phpの先読のボタンをクリックするとその場面が読めますよ。アタと讃岐が抱き合う夜も同じように演出されています。 

 もう一つ印象的だった夜のシーンは、受けが攻めに告白する場面です。町を見下ろす緑豊かな高台で、葉音を聞きながら受けは想いを打ち明けるのですが、夜の静けさが伝わってきて良い。トーンで簡素に処理されているんだけれど、ほんとに葉擦れの音が聞こえてきそうな雰囲気が漂っているんですよ。

 こういう話の盛り上げ方の効果には叙情的なモノローグも役立っていると思う。

真っ向勝負の三角関係

 そして攻めの影郎と当て馬攻めの讃岐は、両方ともそれぞれタイプの異なる良い男だったというのも良かったです。例えば、攻めの影郎はお兄ちゃん萌えに尽きます。暖かくて明るくて優しくて頼りがいのあるお兄ちゃん。幼い時分から受けのアタを大切にしている姿を見ると、こんなお兄ちゃんが欲しくなります。讃岐が陰なら、この人は陽だなぁ。理想のお兄ちゃんキャラです。讃岐については後述しますが、彼もいい男でした。今まで三角関係モノは、藤さんの作品以外でも苦手で出来るだけ避けてきた節があるのですが、この二人の魅力はそんな苦手意識を吹き飛ばしてくれました。

 この作品って、本当に三角関係というものを真正面から描いているんですよね。二等辺三角形の頂点に受けがいるとすると、受けは攻めとも当て馬攻めとも関係を持っていますし、両者とかなり心を通わせているように見える。当て馬攻めに対する攻めの優位性が薄く、どうせ最後は受けと攻めがくっつくんでしょ、みたいな読者の安易な予想を寄せ付けていないのです。だから読んでいてかなりハラハラする。

 ラストシーンでも讃岐は疎外されて描かれていません。三人で歩いていくという終り方は、どこか藤たまきさんの他の漫画『私小説』(こちらも三角関係のお話でした。)を彷彿とさせますが、三角関係を描く作品の終わり方として見るとなんとなく妥当な気がしてくるなぁ。

讃岐の魅力

 そして何と言っても当て馬である讃岐の言動が良かった。医者の息子である彼は受けから父の跡を継ぐのかと聞かれた時、

「“彼女”みたいなこと言うね 俺の将来が気になるかい」

とズバッと切り返し更に

「そーゆーのいい 好きだね」

「だって君は俺に執着を持ちかけている どれ程君を支えられるのか俺の器を見ている」

「いいよそーゆーの 燃えるじゃないか」

と言い連ねている。この返答は凄い。高校生の身で、自分を値踏みする打算の視線(いや、実際には受けはそんな風に打算を意識していたようには見えなかったし、何気ない問いかけであったように私は受け取りましたが。)に対して堂々と受けて立つと宣言できるとは…!なんという懐の大きさだ。讃岐は凄い男になりそうだなー。今でも充分良い男なのに、今後どうなるんだろうか。末恐ろしい。

ヴィジュアルの面でも讃岐は魅力的です。彼は登場人物中唯一の黒髪キャラクターで、ふわふわと柔らかな画面の中で絵を引き締める役割を担っていると思う。例えば126ページの5コマ目で黒い服を着た黒髪の讃岐がぬっと現れるシーンがあるんだけれど、黒の峻烈さや峻厳さが画面に映えて印象的でした。

黒を纏う人物という意味で藤さんの他作品『アナトミア』のエンリケと似通っている印象があります。讃岐はエンリケほど悪魔的には描かれていませんし、むしろ赤面したりなど可愛げのある人ですけれど。

アタも可愛い

 アタは169ページの最後のコマの笑顔が可愛いんですよ!17ページの最後のコマの表情も何とも言えず絶妙だと思います。



【その他】

  • 讃岐曰く「好物を目の前にして食を抑える為に飲む水のような扱い」。うんホントアタはそうだったよねー。残酷と言えば残酷なのかもしれない。でも、一方で付き合う前アタが讃岐にときめいていたりしたことも事実なんだよなぁ。アタの感じたときめきと恋の予感は確かにあったと思う。
  • 16歳で学校には行かずフリーターのアタ。一方、名門の私立高校生である影郎と讃岐。讃岐は開業医の息子であるので経済的にも恵まれています。実際、讃岐とアタの間に権力差はあるし、互いにそれを自覚してる。
  • 影郎とか讃岐とかこんな高校生今時いるか?と言われればこんなに精神年齢の高い子はいないんじゃないかなと中高生相手にアルバイトをやっていた私は思うのですが、藤たまきさんの描く世界というのがしっかりと漫画の中で確立されているので、その世界の中では彼らはとても高校生らしいように見えます。

【まとめ】

 読んで正解の面白さでした。そういえば藤たまきさんは百合も最近描き始められたのだとか。ちょっと興味があります。百合姫買おうかな。


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